【コラム】リーグワン2024-25余話

ラグビーマガジンの編集部は現在、25日に発売する8月号の校了に向け、まもなく佳境を迎える。
東芝ブレイブルーパス東京の2連覇で幕を閉じたリーグワン2024-25を、徹底的に振り返る予定だ。
その中には、記者会見や試合後の囲み取材、練習取材などで選手やコーチから聞いた印象的なコメントをピックアップする特集もある。
担当者の指示を受け、膨大な録音データをもう一度、再生した。
そこには、まだ世の中に出していない選手たちの声がたくさんあった。本誌にも収まりきらなかった余話として、本コラムで届けたい。
◾️HOのままだったら今頃…。
5月8日は静岡ブルーレヴズの本拠地、大久保グラウンドを尋ねた。
新人賞を獲得する前のSH北村瞬太郎を、本誌の『解体心書』で取り上げるためだ。
その取材を前に、スタッフの巧みなマネジメントのおかげで、予想以上に多くの選手に話を聞くことができたのである。
足のケガから復帰した左PRの山下憲太は、右PRの伊藤平一郎に浦安D-Rocks戦(第17節)でのトライゾーンノックフォワードをいじられながら、報道陣のもとへ足を運んだ。
「取っていれば(リーグワンでの)ファーストトライだったのですが…。気持ちが前に出過ぎてしまいました。次はないように、気を引き締めます」
加入4季目の今季は飛躍のシーズンだった。開幕戦から背番号1を背負い、負傷する第9節まで全試合に先発できた。
「いま全員に1番になってよかったねと言われます。HOのままだったら、たぶんチームにはいられなかったと思います」
海星高(長崎)、法大ではFL。ブルーレヴズ入団後に、HOに転向した。
ルースヘッドPRにコンバートしたのは昨季からだ。
「HOの時はスローイングが下手過ぎて、失敗するとそれを引きずってしまっていました。強みのタックルもできなくなりました」
転向のきっかけは、ひょんなことから。2季前のシーズン最終戦前日におこなわれたトヨタヴェルブリッツとの練習試合に、急遽1番で出場することになったのだ。
「Bチームの1番がケガでいなくて、逆にHOは余っていた。僕はHOでは一番下だったので、1番にいってくれないかと。その試合で1番の楽しさを知り、その後の面談で自分からお願いしました」
焦りもあった。同期のFL庄司拓馬、FB奥村翔は大学卒業後すぐにデビュー。PR郭玟慶も実質1年目から出場機会を掴んだ。
「僕と(岡﨑)航大だけが2年間、まったく試合に出られませんでした。同郷で仲も良かったので励まし合って…。それで昨シーズン、航大が先にスタメンで使ってもらえるようになった。その時に『ああ、このまま僕だけ引退か』と。そうなる未来が怖くて、本気で火がつきました」
自分の役割がクリアになれば、武器のタックルを発揮できた。
そのルーツを語る。
「小4から中2まではCTBだったのですが、球技センスのないことがとうとうバレて(笑)。パスが下手過ぎるのでLOに回されました。じゃあ、もうタックルしかすることないじゃん、と。極めようと思いました」
――ネジを外したような突き刺さるタックル。怖さはないですか?
「抜かれる方が怖いです。タックルの時は良い意味で何も考えていません。本能です。もし考えてしまったら、(味方のヴェティ)トゥポウやシオネ(ブナ)のランはめちゃくちゃ怖いですよ」
その後、プレーオフには出場できなかったが、こう言葉を紡いでいた。
「今シーズンは出場した試合は全部先発で使ってもらっているので、責任も感じますし、ずっとアピールする立場として新人の気持ちでいたいと思っています」