ワールドカップ 2025.08.30

【イングランドを好きになりたくてもなれない人の取材記②】まさかの休業、お喋りマークさん、時間の使い方。

[ 明石尚之 ]
【イングランドを好きになりたくてもなれない人の取材記②】まさかの休業、お喋りマークさん、時間の使い方。
(筆者撮影)

 早くもこのタイトルにしたことを悔やんでいる。
 ①(初回)のようなハプニングは、そう起きないからだ。

 思い出す限りでは、編集長がバックパッカー時代に気に入ったという現地の牛乳を飲んでしっかり腹を下したことと、ストライキに遭って30分ほど乗車中の電車が止まったことくらいだ。

 そもそも、接する人たちはいい人ばかり。エクセターでお世話になっているホストマザーも気さくな方だ。

 サクラフィフティーン2戦目の舞台はそのエクセターである。
 中心街は丘の上だ。だからなのか、それともイギリスだからなのか、気温や天気の変化が激しい。

 ショートステイで泊まっているゾーイさんの家はさらに高いところにあり、晴れた時間には街並みを一望できる。

 案内されたゲスト用の一室には、「百合」と書かれた書道半紙が上下逆さまに飾られていた。
 娘の名前が「LILY」(ユリの花の英語)だからだそうで、「元カレが日本で英語を教えていて、それで…」と説明を受けた。

 そう聞くと、上下逆さまなのは何かしらの意図があってのことなのかと勘繰りたくなる。
 英語力のなさから真実を知ることはないのだが。

 移動2日目の8月26日は本来予定されていたメディアデーが日程変更となり、エクセター中を散策した。

 ガンジー・ストリートは、『ハリー・ポッター』に登場するダイアゴン横丁のモデルになったとされている。
 作者のJ・K・ローリングさんはエクセター大学の出身。この町の住人だった。

 途中、ブラジル代表の選手たちを見かけた。彼女たちは日本×ニュージーランド戦のあとに、フランスと対戦する。

 試合会場となるサンディー・パークは1万5000人収容。週末のチケットは、公式サイト上では完売していた(何度かリロードするとリセールの席が販売されることはある)。
 前々回、前回大会王者に勇敢に立ち向うことができれば、地元の観客の後押しを受けられるだろう。

 少なくとも、かつての仲間の声援は受けられる。
 PRの加藤幸子は2020年から2シーズン、エクセター・チーフスに在籍していた。

「いろんな会場でワールドカップがおこなわれる中、エクセターで試合ができるこのがまず嬉しいです。チームメイトやホストマザー、友だちから応援に行くよと言ってくれています。それも嬉しいです」

(左上)雑貨屋で見つけた、ボールから出たがっている(?)ポケモンたち(左中)ライブビューイングで試合を観戦できるファンゾーン。横にあるチェスで遊ぶ子どもたち(左下)ステイ先から一望できるエクセター(右)ダイアゴン横丁のモデルとなったガンジー・ストリート

 翌日は拠点を離れ、ウエールズのカーディフに向かった。
 列車によっては、往復券を買えば片道分がほぼ無料になることを発見。これはデカい。

 1時間に1本ある乗り換えナシの電車で2時間半弱。まちの至るところに、同国の象徴であるドラゴンが描かれていたり、飾ってもあった。

 好立地のプリンシパリティ・スタジアム(旧ミレニアム・スタジアム)やカーディフ城、カーディフ・マーケット、カーディフ国立博物館など観光地を回った。

 功績を称えて造られた、ラグビー選手の銅像もいくつか見つけた。
 大型ショッピングモール「セント・デイビッド」内には、ガレス・エドワーズがいた。

 1967年から1978年にかけて53試合に出場した伝説のスクラムハーフだ。
「1973年1月のニュージーランド戦でのトライは、ラグビーファンの間で史上最高のトライの一つとして崇められている」と紹介されていた。

 海を見渡せるカーディフ・ベイでは、ビリー・ボストン、ガス・リスマン、クライヴ・サリバンといった、ラグビー・リーグ(13人制)のスター選手が肩を組む像があった。
 3人ともこの湾から3マイル(約5キロ)圏内で暮らしていたそうだ。

 夕方前には、この旅の一番の目的であるラグビー人形の老舗「WORLD OF GROGGS」(グロッグス)に足を運んだ。
 粘土で作られたラグビーの名選手たちが、店内にずらりと並んでいるのだ。

 前編集長の机の上には、撮影で使用した元日本代表の松尾雄治さんのそれが置いてあったから、この店の存在を聞いていた。

 カーディフ・セントラル駅からロールラインで30分弱。自動改札のないタフフォレスト駅から歩いて10分ほどで着いた。

 うきうきでドアを開けようとした瞬間、残念な張り紙が目に入る。
 まさかの臨時休業だった。

 確かに、窓から覗いた店内は明かりがついていない。
 海外ではやっぱりうまくいかないことが起こるなあ。とぼとぼ帰路についた。

◆グロッグス店内の様子(2015年時)はこちら

(左上)ウエールズ代表のオフィシャルストア(左下)ウエールズラグビーの聖地、プリンシパリティ・スタジアム(右上)カーディフ・マーケット(右下)壁面に描かれたウエールズ国旗

 翌28日は火曜に予定されていたメディアデーの振替日。サクラフィフティーンの宿舎を訪ねた。
 ニュージーランド戦でリザーブ入りしたバックローのンドカ・ジェニファ、PR永田虹歩、そしてマーク・ベイクウェルFWコーチが取材に対応した。

 詳細は追って別の記事で触れるが、サクラフィフティーンのセットプレーを武器と呼べるまでに向上させたマークコーチは、就任してから初めてメディアの前に姿を現したと記憶している。
 喋り始めたら止まらないユニークな方だった。

 エディー・ジョーンズHCの紹介で、2024年3月から現職に就く。51歳のキウイだ。

 豪州にある古巣のイースタンサバーブスで1995年からコーチキャリアをスタートさせ、ワラビーズ、CAブリーヴ、ASベジエ、バース、レベルズ、トンガ代表、サントリーサンゴリアス、ブリストル、レスター・タイガース、シドニー大(指導した順に記載)と、世界のあちこちでFWコーチやディフェンスコーチ、そしてヘッドコーチを務めた。

 第1戦でラインアウトのミスが複数回起きてしまったことについて、理路整然と話す。
「すでに原因は特定している」の言葉には説得力があった。

 サクラフィフティーンは、この日をオフに設定していた。
 各自で町に出かけ、日本食のレストランに行くなど限られた時間を楽しんだようだ。ビーチに行くためのバスの案内も、チームのホワイトボードに記されていた。

 永田虹歩は「最近はステイホテルが結構楽しい」と笑い、「外出するのもいいけど今日は映画を何本か見ようと思います」と言っていた。

 ンドカ・ジェニファは、ルームメイトの弘津悠とハマっている「はぁというゲーム」をする予定と言った。
 与えられたお題を、声と表情だけで演じて当て合うカードゲームだ(説明が難しい)。私も学生時代に合宿中のチームビルディングで使った。絆はより深まるだろう。

「(選手たちは)ラグビーに集中し過ぎてしまう。オンとオフを上手く切り替えるようになってほしい」

 数年前、レスリー・マッケンジーHCはそんな主旨で選手たちの課題を吐露したことがあった。

 あれから月日が経ち、時間の使い方が上手になったのだろう。
 永田は第1戦での好パフォーマンスを振り返り、「(不調に終わった前回大会から)3年経って余裕が生まれたことが大きいです。オフの過ごし方を気を付けるようにしている」と要因を語った。

「しっかりラグビーのことを考える時間は設けるけど、オフの時間も大切。リラックスし過ぎているわけではないので、パフォーマンスに良い影響が出ていると思います」

 レスリーHCも、翌日のメンバー発表会見で「メンバーのリアクションには本当に感心している」と称えた。

「(アイルランド戦は)全員が悔しい結果だったと思っていると思います。ニュージーランド戦を迎えるにあたり、いかにわれわれのギアを変えないといけないかはずっと話してきました。ですが、プレイヤーの対応の仕方は『まさにプロ』と言えます。火曜、水曜、そして今日も良いトレーニングができました。週末の試合に向けて素晴らしい準備を進められています」

 取材は昼前に終えたから、午後は原稿を書いたり、YouTubeにアップする動画の編集に時間を充てた。が、連日のウォーキングによる疲労もあって途中で寝落ち。レスリーHCから活を入れられそうな1日だった。

(左上)ガレス・エドワーズ像(左下)ラグビー・リーグのレジェンド3人(右中)ラグビー人形の老舗「グロッグス」。次は必ず…(右上)入れなかったグロッグスを窓から覗く(右下)報道陣の質問に真摯に答えるマークFWコーチ
【筆者プロフィール】明石尚之( あかし ひさゆき )
1997年生まれ、神奈川県出身。筑波大学新聞で筑波大学ラグビー部の取材を担当。2020年4月にベースボール・マガジン社に入社し、ラグビーマガジン編集部に配属。リーグワン、関西大学リーグ、高校、世代別代表(高校、U20)、女子日本代表を中心に精力的に取材している。

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