【東京五輪総括】 7人制日本代表ヘッドコーチの岩渕氏とマキリ氏、本城ディレクターは退任
女子の場合、2020年12月にヘッドコーチが替わり、波紋を呼んだ。2017年からけん引してきた稲田仁氏がパフォーマンスマネージャーという役職になり、ハレ・マキリ氏が指揮を執ったのは本番までわずか7か月間という短い期間だった。
「いささか唐突感があったと思うが、オリンピックが1年延期になったことによって、新しい刺激が必要だと判断した。動かずして結果を待つのか、リスクをある程度承知した上で動いてチャレンジして結果を待つのか。後者を取ったということ」(本城ディレクター)
大変な任務を引き受けたマキリ氏は、自分が持っているリソースをすべてぶつけたいという気持ちで取り組んだ。
「チームの強化に関しては、それまで女子の選手たちが培ってきたもの、強化してきたものをすべて一から変えることはしたくなかった。そのなかで何を変えてチームを強化したかというと、彼女たちのマインドセット、ディシジョンメイキングの能力、そしてプレッシャーにさらされた状況のなかでも自信を持ち続けること、そういったものを新たに彼女たちに持たせたいというのがあった。それを主軸にして、強化の基本的な部分から、フィジカルレベルの向上、ラグビー的なところの強化に努めてきた」
7か月間という短い期間のなか、メダル争いの土俵にチームを引き上げるべく、ベストを尽くした。しかし、目指す所と現在地のギャップ、多くの現実を突きつけられた結果となった。体格、フィジカル、スピードなど、アスリート性での苦戦は織り込み済みのところもあったが、日本らしさも発揮できなかった。
「ラグビーはゲームのなかで常に革新的でなければならない競技だと私は思っていて、そのあたりをもっと発揮できればよかったが、足りずに、みなさんの期待に応える結果が残せなかったのは自分自身も残念であり、申し訳なく思っている」
女子のこれまでの取り組みは、大きく言って競技力の底上げと人材育成の2点だった。
「競技力の底上げは、2014年に創設した太陽生命ウィメンズセブンズシリーズのチーム数の充実、ゲームレベルの進歩を見れば、競技力が高まったのは明らか。女子は、アカデミー、デベロップメントと代表へのパスウェイがしっかりできており、早い選手は高校生から太陽生命シリーズにチャレンジしているので、うまくリンクしていると思う。その点からすれば、チーム強化の一貫性、継続性の担保は比較的スムーズだったと思う」
本城ディレクターはそう振り返る。ただ、多くの選手の代表デビューが大学生、高校生だったことを考えると、ベースの競技力が上がったとしても、代表チームの底上げ、選手層に厚みをもたらしたかは疑問だ。今回、東京オリンピックで戦った女子セブンズ日本代表の平均年齢は22歳。世界と比較してまだまだ成熟しきれておらず、この選手たちが3年後のパリオリンピックでも中心となって活躍することを期待する。
そして、人材発掘については、他競技からの転向によるアスリートの発掘に積極的に取り組み、トライアウトを経て、これまで5名の選手がラグビーに転向をして東京オリンピックを目指した。しかし、結果として最終メンバーには残らなかった。
「海外選手と比較して、アスリート能力の差が大きい女子は、ラグビー選手としての(代表への)パスウェイ、強化はもちろんのこと、体格やある特定の能力に秀でた選手の発掘・育成は今後も欠かせない。男子よりも長いスパンでの強化設計が必要だ」(本城ディレクター)
マキリ氏は、選手をひきつけるためのプログラムというのがひとつ肝になると言う。
「ハイパフォーマンスの観点でのアプローチになるが、もっと積極的に、これまでやってきていないことにも手を出していく。そしてもっと探求していくことが必要かもしれない。選手を発掘するにあたっては、3つのポイントが重要だと思っている。それは、スピード、パワー、高さ。ラグビーを教えること自体は難しいことではないが、選んだ選手の体のサイズを変えることはできないので、自分たちがやろうとしているプログラムに対してどういう選手を求めていくのかを細分化して、明確にする。それぞれの可能性のある選手が必要とされていること、そこだったら自分はできるかもしれないというモチベーションを明確に持ってもらえるようにしていくことも、この先考えられるアプローチなのかなと私は思う」