キーマンが語るワイルドナイツの現状と課題。

埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は、先を見据えていた。
4月26日に本拠地の熊谷ラグビー場で迎えた国内リーグワン1部の第16節で、FLのラクラン・ボーシェー、CTBのディラン・ライリーといった怪我からの復帰組を先発させた。
6傑からなるプレーオフ行きへ望みをつなぐリコーブラックラムズ東京を相手に、2人はかねて定評のある守備力で対抗。もっともスコアが10-7と僅差だった前半31分のうちに、ディーンズは両者を交代させた。
ワイルドナイツはすでにプレーオフ行きを決めていたが、当該のトーナメントでシード権を得るにはレギュラーシーズンで12チーム中2位以内に入らねばならない。
今度のブラックラムズ戦も必勝を期して臨んでいたなか、大きくリードを許したわけでもないのに50分を残してリザーブのカードを2枚も切ったことになる。
この采配は予定通りだったと、指揮官は言う。
5月中旬以降のプレーオフを見据え、決断した。
ワイルドナイツは前年度まで3季連続でファイナリストとなるも、ここ2シーズンは日本一を逃している。ピーキング、コンディショニングを再検討するのは自然な流れか。
件のメンバーチェンジについて、他の選手も事前に知らされていたという。とはいえその後は、他のアクシデントにもさいなまれた。SHの小山大輝や途中出場したFLの大西樹が、本職と異なるWTBへ入ることとなった。
スクランブル体制にあっても、現場は首尾よく対応。27-21と僅差で勝利してから、ボスは述べた。
「2人(ボーシェーとライリー)の交代は事前に決めていたことです。リスクを計算していたのです。きょう午前中の試合(控え組のトレーニングマッチ)でプレーさせる選択肢もありましたが、こちら(公式戦)で出す方がよいという判断になりました。挑戦的でしたが、生き延びたことでグループとしていい経験ができたと言えるようになりました。保守的に動くこともできましたが、自分たちが最終的に目指すところがあったので、長い目を見てリスクを取りました」
ディーンズはこうも伝えた。
「ちなみに午前中のゲームでは、(しばらく欠場をしていた)山沢拓也選手も出場しています。選手層の厚さが試されるなか、複数名が返ってきたことは素晴らしいことです」
段階的に積み上げているのは、現場に立つ者たちも同じだ。
日本代表としてワールドカップに4度出場し、このクラブの防御システムを作り上げたと謳われる堀江翔太は昨季限りで引退。失われた無形の財産を既存の精鋭が補う今年度のワイルドナイツは、故障者が重なったのもあり第11節から2連敗を喫した。リーグ戦全勝の前年度とは様子が異なる。
このほどのゲームでも、看板の守りで理想と異なる動きが見られたような。
接点側から見て外側の選手がせり上がり、走者のランコースを限定して内側のメンバーが仕留めるという本来の手法が未遂に終わったのは前半22分。内側のメンバーが相手SOの伊藤耕太郎に抜き去られ、失点した。
HOの坂手淳史は「(試合直後の)感覚的なところでは…。たくさん走らせすぎた」と振り返った。
「(追って)映像を見たら、もっといろんな修正点が挙がると思います」
本来ならばひとりの選手が絡むはずの接点へ、ふたりのタックラーが滞留させられるシーンも相次いだ。こちらも、横幅の広い防御網を敷くには改善を急ぎたいところか。
一昨季に新人賞を得たCTB兼WTBの長田智希は、こう頷いた。
「ディフェンスのシステム自体に変更はない。ひとりひとりの役割を遂行する精度を上げていかないと、これからさらに強力な相手と試合をする時は苦しくなります。2人が一気に(密集に)巻き込まれている場面は、単純に(最初の)コンタクトで負けている。ひとりめ(タックラー)がしっかりと下に入ってふたりめがファイトするという役割をより強度高く、よりアグレッシブにやっていかないと…と、チームで話しています」
近年は、序盤からほぼ盤石な戦いを披露しながらファイナルでミスなどに泣いた。一方、いまは細かい検討課題をあぶり出しながら頂上を見据えている。長田はこうだ。
「先を見ずに、試合で出た課題を次の試合に向けて改善していく…そう考えています」
5月3日に東京・秩父宮ラグビー場である第17節では、12チーム中2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイとの首位攻防戦をおこなう。
他会場の試合も含めた結果次第では3位転落もあり得るだけに、なるたけ本来のパフォーマンスを発揮したいところか。
坂手は「言い方は悪いですが、シーズン終盤になっても消化試合にならないゲームができている。それによって、見ている方も楽しめている。僕たちにとってはタフですが、それもまたラグビーなので」と発した。