国内 2025.10.16

【ラグリパ×リーグワン共同企画】どん底から這い上がった「ガッツ」が誓った恩返し。「自分のすべてを捧げる」

【ラグリパ×リーグワン共同企画】どん底から這い上がった「ガッツ」が誓った恩返し。「自分のすべてを捧げる」
WTB斉藤大智、法大時代から愛称は「ガッツ」(©ヤクルトレビンズ戸田)

 10月11日、ヤクルトレビンズ戸田の斉藤大智が約1年ぶりに実戦のグラウンドに立った。

 ジャパンラグビー リーグワン ライジング2025、第3週のクリタウォータガッシュ昭島戦。斉藤は後半18分にグラウンドに立つと、無我夢中でボールを追いかけ、何度も何度も相手に食らい付いた。

「正直、1年ぶりの復帰戦ということで吐くほど緊張していましたが、何よりもここに戻って来られたことがうれしいです。河野嵩史ヘッドコーチをはじめ、自分を熱心に支えてくださった周りの方々には本当に感謝しかありません」

 それは、どん底からの生還だった。

 昨季はプレシーズンの練習ゲームでチームのファーストトライを奪うなど順調な滑り出しを切ったが、リーグワン開幕直前の10月19日、地元の岩手で開催された日本製鉄釜石シーウェイブスとのプレシーズンマッチで大ケガを負ってしまう。医師の診断は筋断裂。「今季はもうプレーできません」と告げられたときは目の前が真っ白になった。

(もうラグビーはできないのかもしれない……)

 ひどく落ち込み、しばらくは何も考えられなかった。

「絶対にあきらめるな。やり続ければ必ず結果は出るから」

 そんな斉藤に周りの選手、チームスタッフ、家族、友人らが途切れることなく声を掛けてくれ、連絡をくれた。中でも、同じウイングとして切磋琢磨する後輩、太田景親の存在は大きかった。

 斉藤は“練習の虫”というほど練習する。全体練習後には基礎練習を反復しようと必ず誰かを捕まえるが、まずは太田に声をかけてきた。「今日はいいっすよ~」と言いながらも付き合ってくれる後輩は、試合に絡むために試行錯誤しつつ苦楽を共にしてきた仲間だった。

「ここで折れたらダメですよ」

「絶対に大丈夫ですから」

 お互いの部屋を行き来しては何気ない会話や時間を重ねる中で、だんだんと斉藤の心が前向きになっていた。

 斉藤は“ド根性”を地で行く選手だ。

「自分は不器用だし、それでも自分ができることを最大限に発揮してチームに貢献したいんです」

 それが幼少期にラグビーを始めたときから変わらない信条としてある。がむしゃらに走り続け、真っ向から相手にぶつかっていく。

 その信条が、決定的な強みにまで昇華したのが黒沢尻北高校時代だった。小田島康人監督(当時)の「ラグビーも100%、勉強も100%で取り組むことで人として成長できる」という考え方の下、毎日夜10時まで練習し、朝5時には起きて勉強する、そんな生活を3年間やり抜いたことで、より強く、タフになれた。

 その後進学した法政大学で付けられた愛称は「ガッツ」。1年時の練習ゲームで唇を裂傷しながらもド根性でボールを追いかける姿を目の当たりにした元日本代表の遠藤幸佑バックスコーチ(当時)が「斉藤、オマエなかなかいいじゃねえか」と付けてくれた愛称だった。憧れのワールドカップ戦士に認められた“ド根性”は斉藤の確たる自信につながった。

「『ガッツ』という愛称をもらったのに、あきらめるにはいかないじゃないですか」

 大ケガからの復帰戦を終えた斉藤の顔は安堵に満ち、憑き物が取れたように清々しかった。

 斉藤は、1年という長期におよぶリハビリを周りの支えと持ち前の「ガッツ」で乗り切った。そして、すぐ目の前には自身初となるリーグワンの舞台が待っている。

「今季は、自分を支えて下さったすべての方々に恩返しをするために捧げようと思っています。自分のすべてを全力で出し切りますよ」

 どん底から這い上がった斉藤が、固い決意とともに新たな戦いに飛び込んでいく。

(鈴木康浩)

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