【コラム】なんでもできそうな明治だからこそ。

ロマンの投影。スポーツ観戦を愛する者の権利だろう。自分の抱く理想の姿、あるいは、みずからの歩んだ道にちょっぴり残る悔いのようなものを吹き飛ばす痛快。それらをひいきのチームや選手に重ねる。
そこでメイジだ。全国大学選手権の優勝は13度の明治大学。熱烈な支持者は、もちろん本当はひとりひとり違うのだが、やはり、総じて、おおむね、だいたいは「前へ。まっすぐ」をどこかで紫紺のジャージィに求める。
今季も各ポジションに高校の逸材が層をなす。もはや、ただ「ドカーン」ではありえず、よく練られた仕組みを築いて、2018年度以来の学生王座をめざして本日も努力を重ねる。
ところが開幕節の9月14日にいきなり筑波大学に敗れた。24-28。スキルやパワーや戦術の問題よりも心理の結束、なんと書くのか「われわれはこれで勝負」という「信」のところがやや揺れた。
ファンの表情はさっそく曇る。応援歴はざっと45年、駿河台に学んだ芸術家は本コラム筆者の耳元で嘆いてみせた。
「このままでは慶應にダブルスコアでやられます」
第2戦で青山学院大学を91-7で退けたあとである。敗者がウイルスによる体調不良で主力を多く欠いたとはいえ圧勝は圧勝なのに。つくづく愛はいつだって不安と肩を組む。
10月11日。雨の神奈川・大和スポーツセンター。この日は日本体育大学と対戦した。なんとこちらも部内で19人がインフルエンザに感染、当日の朝までメンバー編成は定まらず、本来の布陣は大きく削られる。23人のうち新入生が8人を数えた。
J SPORTSの解説をした。日本体育はすでに早稲田、帝京に敗れている。その変更また変更のメンバー表に手にして、白状すれば、極端に一方へスコアが流れた場合に備えて、いくつか逸話を用意した。時間をもたせるつもりだった。結果、出番はなかった。
43-12。前半は17-7。後半8分のところでは5点差に縮まった。中立の放送席にあって「発熱や体の節々の痛みで本来のメンバーをざっと半数をなくしながらタックルに燃える日体大いっぺんとう」に傾いた事実は否定できない。それで構わないと思った。
明治はなんでもできそうだった。押す。当たる。抜く。そして理詰めで崩す。どの領域でも上回る。すると、ままあることなのだが、攻守の輪郭がぼんやりと薄くなった。
押し切れず、いや押し切らず、ひとつずつの衝突は粉砕にいたらず、本当に止められるより前に難を避けて、されど悪天候もあって継続はどうしても乱れる。
試合後の会見。勝者のキャプテン、12番の平翔太のコメントは反省に終始した。
「(ゲームの)入りのところで徹底していこうとは伝えていましたが、どこかで甘えというのかスキが見えて、スタンダードを体現できませんでした」
開始50秒。細かくつないでつないで落球に終わる(アドバンテージは得ていた)。同2分、またフェイズを小さく刻んだあとのパスが地面にはねる。その後、相手4番の島澤桜太の激しいタックルにスティールを許した。
最終盤。進む時計で84分のやや手前、パスを連続させて8フェイズを積みながらノックフォワード。直後に相手の持ち込んだ球を奪って切り返す。FWまで遠く後方へ放るなど、セブンズのごとくパスにつぐパス、ただし結末はかんばしくない。
濃淡ブルーの11番、2年の清原尚己(選手名鑑ではSHの166cm・63kg=迷わず体を張って、母校・広島工業のスピリット健在なりと教えてくれた)の詰めのタックルにターンオーバーされる。
はじまりとおしまいが明治らしくなかった。当然、あいだに優れた攻守もあった。スコアについては雨模様でもあり気にしなくてよさそうだ。ただ確かに「徹底」は課題として残った。
平主将は会見冒頭をこう続けた。
「まだまだ次がありますので、修正点を自分たちで突き詰めて」
突き詰める。問われるのは対象である。アタックにおけるパスとランの角度や深さを調整、手を抜かぬ反復で身体化する。 間違いではない。
だが。しかし。以下、取材する立場での「ロマンの投影」である。明治は明治なのだ。徹底して突き詰める。その筋道は「複雑」でなく「簡潔」へ向かうべきだ。
いかに少ない手数で前へ出るか。押せるとわかったスクラムはいつでもどこでもいつまでも押しまくる。
「ボールを持った人間がリーダーだ」(北島忠治)。自分が当たりたいなら当たり、走りたいのであればトライラインめがけて最短距離を突っ切る。途中で何があろうと仲間が支えてくれる。
モダンなシステムを放棄せよという意味ではない。前へ。まっすぐ。明快な原点が、積み上げた攻守の理論をいっそう際立たせるのである。
最後に。明治大学ラグビー部102代主将、平翔太は非凡だ。前半4分46秒。やや浮いたボールをつかみ、いきなり縦へ。トライラインに正対する上体はゆとりを残し、パスを滑らかに繰り出したり、必要なら止まったりもできそうだ。いかにも駆け出すという雰囲気ではない。そこから一気に加速。しかもシューズの底が芝を滑るような小またの「スリ足」である。
このランは海外勢に強い。スプリングボクスやオールブラックスのディフェンスも崩せる。いつか目にできるかもしれない。