仕留める「ワンチャンス」。日本代表の奥井章仁がタッチライン際で意識したこと。

嬉しくはなかった。ただし学びはあった。
奥井章仁はこの夏、今年初選出のラグビー日本代表の一員としてパシフィック・ネーションズカップ(PNC)へ参戦。出場登録メンバーから外れた際は、給水係を務めた。
タッチラインの手前で戦況を見つめ、プレーが途切れたタイミングでボトルを運ぶ。インカムへ入ってくる、エディー・ジョーンズヘッドコーチらの指示をフィールドへ伝えるのも仕事だ。
聞いた内容は、適宜、咀嚼したり、要約したりして、初めて現場で身体を張るメンバーへ腹落ちさせることができる。冷静さと想像力が求められるこの責務を、出身の大阪桐蔭高、帝京大で主将、副将をした24歳が全うしたのだ。
「選手が『乗る』言葉遣いというものがあると思う。それは普段の練習でハドル(円陣)を組んでいる時も(一緒)。縮こまってしまうし、うまく行き過ぎている時にゆるく伝えてしまうと、さらなるゆるみに繋がってしまう。…バランスを考えながらやっています」
ちなみに今回は、「プレッシャー!」というリクエストが多かった。ジャパン側が放ったキックの弾道をしつこく追うよう促したのだ。ちょうど目の前にいたWTBの石田吉平に伝達した。
「そこ、プレッシャーかけてー!…と。もちろん(試合に出られないのは)悔しいですけど、いい経験でした。(立ち位置と)グラウンドが近いので選手の声とかも聞けて、その後メンバーに入っても変わり(違和感)なくできた」
普段はトヨタヴェルブリッツでFWの第3列を務める。身長178センチ、体重105キロと一線級にあっては大柄ではないが、体格に恵まれた海外出身者との競争へ堂々と臨む。それは日本代表でも然りだ。
「僕みたいなサイズの人間がインターナショナルの場で力を発揮することで、今後(のラグビー界)にも、自分の経験にも(好循環が)つながる。毎日、毎日、必死にやっているところです」
ライバルとは仲間同士でもある。
ポジション争いをする年長のベン・ガンターとは、よく同部屋となった。PNCのためのアメリカ遠征中は、ガンターが他の外国人選手との食事へ連れ立ってくれた。こちらもバックローに並ぶジャック・コーネルセン、ティエナン・コストリーも一緒だった。
「ベンは優しいので、皆で行く時に誘ってもらった感じ。ひょこひょこっとついて行っただけです!僕は片言でしか(英語を)喋れないですが、周りが日本語を覚えてくれている。いいコネクト、できています」
PNCでは、テストマッチ初陣を含め計2戦でジャージーを着た。決勝では、世界ランクで4つ上回っていたフィジー代表に27-33と対抗。自身も後半25分からピッチに立った。課題と手ごたえを口にした。
「勢いに乗せてしまった時に簡単にトライされましたが、自分たちの『超速ラグビー――テンポを出して、ブレイクダウン(接点)をしっかりすること――』ができれば対抗できた。やるべきことを遂行することが大事だとわかりました」
10月以降は国内外で、非代表戦を含め7つのゲームに挑む。
18日には若手主体のJAPAN XVが大阪でオーストラリアA代表にぶつかり、24日までにはJAPAN XVと日本代表がいったん分離する。
正代表は25日、東京・国立競技場でオーストラリア代表と激突。その後はメンバーを再編のうえ渡欧し、ワールドカップ2連覇中の南アフリカ代表などとぶつかる。
奥井は守りでアピールしたい。
「ボールを持っていない時にどれだけ仕事ができるかが大切になる」
話をしたのは14日。宮崎合宿のメディア公開日だ。JAPAN XV側主体の実戦形式メニューを終えてからは、スティールの個人トレーニングにいそしんでいた。トップクラスの攻防における、ターンオーバーへの「ワンチャンス」を仕留めるためだ。
独自の言い回しで真剣さを発信する。
「ワンチャンスをものにしようとすると、毎セッションをもっと密にやらないといけないと感じます。1日、1日、細かく、『実がこもった』ようにちゃんとやらないと。(遠征組に)選ばれるように、パフォーマンスを発揮することにフォーカスしたいです」