【連載】プロクラブのすすめ㉑ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] なりたい姿から逆算できるリーグへ。
――クラブを手放したくないという思いが働くのでしょうか。それとも法人化が手間だからでしょうか。
いまのブルーレヴズも100%ヤマハ発動機出資の子会社ですし、まったく手放してはいません。ブルーレヴズになったから支援額が減少したということもありません。
もちろん法人化したことで事業スタッフの人件費やオフィス家賃などかかるコストは増えていて、リーグワンになってからはホストゲームの興行原価も必要となりました。それでも4年目となった今はそれらのコスト以上に新たな収入が多くなりつつあります。
バスケもサッカーも、当初は企業スポーツの人たちは法人化は絶対に無理だと言われてきました。定款を変えたり、株主の理解を得なければいけないと。でもどちらもそれを乗り越えてきた。
いまリーグワンで議論がなかなか進まないのは、何かしらの理由で現状(法人化が)できないというチームが多いので、リーグとしては「いまの形が望ましい」と言わざるを得ないからなのかなと思います。
――ただ、これまでは社員の福利厚生のために人事部や総務部にぶら下がっていたクラブが多かったけど、広告宣伝部や新規事業部に属するクラブが増えています。良い方向に進んでいるのでは。
良い方向には進んでいるとは思います。ただ会社の中の一部門だと事業としての採算は見るとは思いますが、貸借対照表などの財務諸表はありません。資金繰りという観点もないので、仮に赤字でもそこまでシビアではないでしょう。事業部長ではなく、経営者という存在がいるかいないかでも大きく組織は変わってきます。
また、広報の確認業務や契約業務などのいろんな手続きが大きな会社の中の仕組みでやらざるを得なくなると、時間が遅くなったり、手続きが煩雑になりがちです。
――他のチームからリーグにライセンスを求める声はないのでしょうか。ライセンスがあれば、会社も動いてくれるかもしれないと。
雑談の中ではそのような声も耳にします。ライセンスはクラブの背中を押すものです。ライセンスがあれば、一つのスタジアムでホストゲームができるように努力するでしょうし、ライセンスを武器に自治体と交渉できます。
ライセンスの基準は本来、背伸びしなければ届かないけど、各チームが努力をすれば到達できるラインに設定するものです。
もちろん、できるわけがない無茶な基準を示してしまってもいけませんが、いまはできないけれどできるかもしれないことにチャレンジしようと思える基準を定めないと、ライセンスの意味がなくなります。
――スタジアムのライセンスでは、「ホストエリア内の収容1万人以上のスタジアムを3か所を上限に確保し、5割以上の試合を実施する」ことなどが定められる予定です。すでに満たしているチームがほとんどで、ライセンスが背中を押すものには感じません。
結局は現状の可能性に合わせたものなんだと思います。こうありたい、こうあるべき、ではなく、これであればできるだろうと。
背伸びしなくても届くところに基準を置いてしまっています。
――ただ、バスケのBリーグに加盟するクラブが分社化したのは、外的要因からでした。
そうですね。サッカーは世界から取り残されることが明白だったので1993年にJリーグを作りました。バスケは国際連盟からリーグ分裂を解消しなければ日本代表は試合を行ってはいけないという制裁からBリーグができた。
海外から開国しろと迫られて鎖国を解いたように、いかにも日本らしい話です。
そうした状況ではなく世界と互角に戦うバレーボールも、実はラグビーと同じ悩みを持っています。
SVリーグの大河(正明)チェアマンがある記事で、サッカーやバスケのような「なぜ変わらなければいけないか」という大義名分がない中でプロ化や法人化を進めることはコンセンサスが取りにくい、クラブの理解をなかなか得られないことは非常に悩ましいというコメントがありました。
だからこそ、本質的なところに立ち戻るべきだと思っています。
経済や市場規模を拡大したかったり、ファンを増やしたかったり、地域に愛されるクラブをつくりたいのであれば、しっかり自分たちのホストエリアを明確にして、一つのスタジアムでホストゲームをおこなうべきだと。
法人をつくって経営者という存在を明確にして人材に先行投資をしたり、リスクを取りながらチャレンジをしたり、売り上げ目標などの経営目標を作り、3年後や5年後にこうありたいという絵を描く。
そうしたあるべき姿を目指すために議論が深まれば、自然に法人化は進むはずです。
僕もいろいろなクラブの方と話をさせていただきますが、将来的に法人化を見据えている印象もあります。そこでリーグが背中を押してくれれば、一気にドライブがかかると感じています。