国内 2024.12.31

決勝に出たい。小野麟兵[京産大/CTB]

[ 藤田芽生(京産大アスレチック) ]
【キーワード】,
決勝に出たい。小野麟兵[京産大/CTB]
ウォーターボーイとしてチームを支える小野麟兵(撮影:藤田芽生)

 大学4年間は長いようで短い。そして濃い。
 グラウンドに立ち続けられる選手もいれば、ケガに悩まされて自己と向き合う時間の長かった選手もいる。

 京産大の4年生、小野麟兵は後者。
 ポジションはCTBで、ひたむきなディフェンスが武器だ。昨季は春から主力として活躍し、当時キャプテンだった三木皓正(現・トヨタV)に次ぐ守備の要だった。

 京産大ラグビー部OBの叔父・英宣(ひでのぶ)さんの影響もあり、男3兄弟全員が幼い頃からラグビーに打ち込むラグビー一家の末っ子として生まれた。

 中学は京産大にも出身者の多いラグビーの名門、西陵中でプレー。進学先は、悩んだ末に京都工学院を選んだ。
 当初は三木らのいる京都成章への進学を希望していたが、京都府中学校選抜で出会った友人らが工学院に進むこともあり、挑戦者となることを決めた。

 しかし、花園の舞台に立つことは叶わなかった。先発に定着した3年時の花園予選は0ー28の完封負け。憧れた青と黄色のジャージーは遠い存在だった。

 大学も悩んだ末に京産大へ。同じCTBのポジションでラグビー界のレジェンド、元木由記雄GMが誘ってくれた。
「関東の大学などいろいろ考えていたんですけど、京都で勝てるのであればそれが一番嬉しいことだなと」

 しかし、待っていたのは数々の試練だった。同期の多くが1年生からジュニア戦(B戦)に出場する中、小野自身は長らくCチームにとどまった。
「何がそんなに違うのかと悩んだ時期もありました」

 転機は2年時の菅平合宿。コーチ陣から試合中のコミュニケーション不足を指摘された。
 改善すれば、Aチームでの出場が叶った。秋の関西リーグ第3節・関西大戦でいきなり先発に抜擢されると、工学院で培ったフィジカルと持ち前のタックルでチームの勝利に貢献した。

 しかし、努力が実った矢先に悲劇は起こる。第5節の同志社大戦で右足の内側靭帯を負傷。シーズンが深まる大事な時期での離脱に、やりきれない思いが強かったという。

 苦難は続いた。
 3年時こそ1年間戦い抜き、関西優勝と全国ベスト4を経験。国立競技場にも立てたが、4年時はチームが春から好調を維持する中で、またしても憂き目に遭った。

 6月。摂南大との練習試合だった。2年前と同じ右膝を負傷した。

「また内側靭帯かなと思ったんですけど、前十字靭帯と半月板(の損傷)と聞いた時は、終わったなと思いました」

 これまでで最も重いケガだったが、心は折れなかった。
「早ければ5か月くらいで復帰できると言われめした。それを聞いて、気持ちを落とすことなく過ごせました」

 懸命なリハビリはもちろん、早期復帰を目指し、病院探しなど各方面から情報を集めていた。そして何より、仲間たちが復帰を待ってくれていると伝わったことが大きな支えだった。

 ただ、その仲間たちの状態が芳しくなかった。関西リーグ第6節の関西学院大戦では、現役部員にとって関西で初の黒星。天理大との優勝決定戦でも敗れ、連覇が「3」で途絶えた。

 天理大戦はウォーターボーイとして、一番近くからメンバーを見ていた。
「後半に点差が開き始めてから諦め出しているのがわかりました。腹立たしい気持ちもあったけど、試合に出ていない立場の人間からとやかく言われたくないかなと。何も言いませんでした」

 もどかしさを払拭するには試合に出るしかない。しかし、目標としていた大学選手権の準々決勝のメンバー表に、小野の名前はなかった。コーチ陣からは「準々決勝いくぞ」と激励されていたが、期待に応えるだけのプレーを示せなかったのだ。

「痛みを抱えながらの復帰で、怖かったし、膝が壊れそうやなと思いながらプレーしていました。前の自分、またそれ以上に戻すことができていませんでした」

 1月2日の準決勝でもメンバー入りできず。「もう出場機会はないかな」と諦めまじりの言葉を思わず吐露するが、どうしても果たしたいことがある。
 それは、幼馴染である上村樹輝(帝京大)との約束だ。

「樹輝とは小中高全部一緒で。大学1年生の時は京産×帝京の試合をスタンドで一緒に見て、2年生の時も2人ともメンバー外。去年は準決勝にどっちも出場できて、試合後に最後の選手権は決勝で戦おうと約束しました。それを目標に2人とも頑張ってきました」

 上村も1か月前に肩を負傷したが、「決勝には絶対に出るから麟兵も間に合わしてこい」と連絡があったという。

「だからまだ頑張りたい気持ちもあるんです」

 悲願の日本一も、幼馴染との対戦も、準決勝の壁を破らなければ実現できない。
 自らの手で導くことはできないけれど、苦楽をともにしてきた仲間たちが復帰を信じて待ってくれているように、自分も仲間が決勝に連れていってくれることを信じている。

「同期はみんな仲が良いです。みんなのこと好きやし、最後は信じています」

 最高の仲間とともに、最高の形で大学ラグビーに幕を閉じたい。

PICK UP