国内 2023.02.23

元トップリーグチームの主将が迫る「エンジョイラグビー」の真髄。茗溪学園の芥川監督×流山ラグビークラブの川合代表

[ 多羅正崇 ]
元トップリーグチームの主将が迫る「エンジョイラグビー」の真髄。茗溪学園の芥川監督×流山ラグビークラブの川合代表
オンライン対談時の様子。グレイトホークスの川合毅代表(左)と、茗溪学園の芥川俊英監督。(撮影/多羅正崇)



 エンジョイを大事にする2チームの現場トップが語り合った。

 1人目は、時代を先取りした「エンジョイラグビー」で全国強豪となった中高一貫校、茨城・茗溪学園の芥川俊英監督。

 同校OBで筑波大学でもプレーした芥川監督は、茗溪学園中学、高校で監督を務める。

 茗溪学園中では2022年、コロナ禍のため分散型大会となった全国中学ラグビー大会「太陽生命カップ2022」の後期日程「中学生の部」で、全国優勝を果たしている。

 2人目は、「楽しむ」を追求して急成長しているタグラグビーチーム、流山ラグビークラブ「グレイトホークス」の川合毅代表だ。

 川合代表は、トップリーグ(現リーグワン)に参加していた日本IBMの元キャプテン。現在は老舗刃物メーカーの人事部長として働きながらクラブ代表、流山市ラグビーフットボール協会の会長を務める。

 川合氏が代表を務めるグレイトホークスは、各年次で定義付けされた「楽しむ」指導が好評。設立後2年半で会員は約180名になった。

 2023年4月には同じく千葉・流山市で、コンタクトありのミニラグビーチームを創設予定。練習場は、人工芝やナイター設備を備える江戸川大学(千葉県流山市)のグラウンドだ。

 茨城と千葉でそれぞれ「エンジョイ」「楽しい」を重視する指導者同士。お互いに連絡を取り合っているというが、その関係性は川合代表のアプローチから始まったという。

2022年の関東新人大会優勝時(両校優勝)の茗溪学園中学(提供/茗溪学園ラグビー部)
トップリーグチームで主将を務めたグレイトホークス代表の川合毅さん。(提供/流山ラグビークラブ グレイトホークス)

■「エンジョイ」と「強い」が両立する茗溪学園

——指導のグレードは違いますが、それぞれ「エンジョイ」を大事にする指導者同士。お二人の関係性は?

川合代表:私が一方的にアプローチしたんです。中学時代に茗溪学園と対戦したことがあったのですが、自由奔放なスタイルに衝撃を受け、それ以来ずっと茗溪学園の秘密を知りたいと思っていました。「グレイトホークス」の約180名の子どもたち、これからラグビーを始める子どもたちにより楽しんでもらうために試行錯誤をしていますが、その答えが茗溪学園にある、と思っていました。そこで去年11月頃に『どうしても芥川さんにお会いしたい』とアプローチして、練習も見学させて頂きました。押し掛けてしまい、すいませんでした(笑)。

芥川監督:いえいえ(笑)。川合さんが代表を務めるタグラグビーチーム(グレイトホークス)は、純粋にラグビーを楽しむ方針で、普及の観点からも素晴らしいなと思っています。茗溪学園はジュニアラグビーにすごく支えられているので、是非、という感じでした。

川合代表:そこで茗溪学園の練習を見学させてもらった時、本当に「コレだ!」と思い、4月に立ち上げるミニラグビーチームの参考になりました。まず選手が自由に集まってきて、自由に練習を始めているんですね。そして監督もコーチもいる前で、自分たちで練習メニューを決める。自分たちで考え、みんな伸び伸びとやっていて、それでいてスキルがとても高い。驚きました。

芥川監督:まず前提としてですが、茗溪学園では男子は中学1年から6年間、体育の必修授業としてフルコンタクトのラグビーがあります。初代校長の岡本稔さんが英国のパブリックスクールを参考に校技に決めたそうです。

川合代表:それが凄いですよね(笑)。

芥川監督:先ほどの練習メニューの話に関しては、基本的に彼ら(選手)から「こういう練習がしたい」という意見があって、修正が必要と感じたら「ここを変えたらどうか」と提案しています。監督就任当初は僕がメニューを決めていたんですが、知識のある生徒も多くなって、もう彼らで決められるな、と。就任5、6年目くらいから“補助”に変わったと思います。

川合代表:驚いたことは他にもあって、茗溪学園では勝っても負けても、良い意味で「何も変わらない」というんです。学校にラグビーが日常として存在していて、揺るぎない文化として根付いている。だから、ことさら大会の結果に一喜一憂することがない。これがまた衝撃です。

芥川監督:2022年は太陽生命カップ(第13回全国中学生ラグビー大会)の「中学校の部」で優勝しましたが、校内放送で「優勝しました」と報告して、拍手があって終わり、という感じでした(笑)。ラグビーに限らず、スポーツが学校の日常にあり、それぞれがスポーツを楽しんでいます。

川合代表:勝敗に拘泥しないのであれば、たとえば「こうしたら勝てる」と分かっていても、あえて伝えない場合もありますか?

芥川監督:あり・・・ますね。僕は勝つためのメソッドのようなものは強要しないですね。たとえ失敗したとしても、今後同じようなシチュエーションはあるので、そこで成功すれば失敗も成功体験になると思うんです。失敗したら「なんでこういうプレーをしたの」と問いかけて、そこで止めます。投げかける程度ですね。そもそも彼らに「こうしたら」と伝えても、「今のはこう思ったからです」と言い返されています(笑)。

川合代表:おそらく茗溪学園の能力があれば、指導者が白いものも黒だといえば、今以上に強くなるかもしれない。しかしそれを良しとせず、一切強要をしない。ラグビーを教育と捉えていることが分かる一例ですね。

——結果に拘泥しないエンジョイ・チームが、結果的に頂点に立つ、という現象も興味深いです。

芥川監督:中学の場合は、中学校でラグビーをやりたい、というラグビー経験者が受験をしてくれることが大きいと思います。あと、目標設定が「日本一」の場合は、日本一になるための練習をしています。ただしその目標設定は彼らに任せています。リーダー陣が話し合って決めた1年間の目標が「楽しければそれでいい」であれば、そのための練習を決めるように伝えます。

川合代表:ラグビーの楽しみ方は任せているんですね。

芥川監督:そうですね。ただ大体の目標設定は「太陽生命カップの優勝」になります。そこで、日本一を目指すなら、きついこともやらなければいけないよねと。ただ自分たちで「日本一を目指す」という楽しみ方を選んでいるので、厳しい練習もあまり厳しいとは思っていないのではと思います。

川合代表:そもそも「人によって楽しみ方が違う」という前提から出発しているチームは、実は少ない気がします。私たちが運営しているタグラグビーチームも、試合が楽しい子、来ることが楽しい子、友達に会いたくて来ている子など、いろんな子がいます。楽しみ方にも多様性があるという前提に立てるかが、私たちの普及フェーズのチームでは重要だと思っています。

PICK UP