【コラム】ぎこちなさの理由
ぎこちない人を知っている。ぎこちない人がぎこちなくなるには理由がある。ひさしぶり会った人に挨拶ができない。感じが悪い。でも、そこには「向こうがこちらのことを当然知っていると思うことは傲慢なのではあるまいか」という微妙な心理が働いている。あっ、冒頭のぎこちない人とは本当はこのコラムを書いている筆者です。だから、よくわかる。
春の初めのころ。ぎこちないラグビーを見た。埼玉県熊谷市での全国高校選抜大会の初日。函館ラ・サール高校は佐賀工業高校に対して執拗なボール保持戦法を行なった。小さなラックを繰り返してレフェリーの「ユーズ・イット」の声がかかったあとの限度である「5秒間」を使い切る。いささか単調。クラブのモットーである「ALWAYS ATTACK」とは異なっていそうだった。
きっと函館ラ・サールのひいきからも批判はあっただろう。でも少し内情を知っていたので異なる視点で大敗(0-80)を追えた。
負傷やさまざな事情で本来の先発から5人ほど欠けた。出場していたら注目を集めそうな複数の主力も不在者に含まれていた。動けたのは初心者も加えて総勢24名にとどまった。
もともと広く各地の生徒の集う寮制の学校なので、帰省にともなう移動などを鑑みて、新型ウイルス拡大への対処はやはり厳格、なかなか満足な活動はままならなかった。序列の計算からすると選抜大会では初日に強豪校とぶつかるのは必至だ。優勝候補筆頭格との対戦もありえた。
この条件でどうするか。宇佐見純平監督は熟考した。「徹底したボール保持」が選手と話し合っての結論だった。限られた条件で「そこだけ」に特化して練習を積んだ。「そこだけ」は戦えるように仕込んで想定のトップ級に挑むと決めた。
ボールを持ち続けることで防御の時間や回数を減らし、じっくりさぐった好機に切り札の10番、川村心馬が走る。くっきりとした戦法に求められるスキルを研究、反則にならぬためのルール理解に時間を割いた。
いざキックオフ。通用するところはあった。準備したのに通用しないところもまたたくさんあった。前半は0-24。チャンスもつくった。しかし細い道にかけた勝機が遠ざかると攻守とも崩れた。
さて、いかに総括するか。「どうせ大敗なら、もっと普通に戦ったほうがよい」という声も間違いではない。しかし、前述のような甘くない状況、相手との体格や経験の大差をいかに埋めるかの観点では「ひとつの迷いのないスタイル」に徹するのは悪くない。