国内
2020.10.05
【コラム】データなき、驚きの秋。
コーチをしていると試合中に相手のFWの顔を見る習慣がつく。膝に手を置く。発汗が激しい。そのあたりを察知したら、自分のチームに指示を発する。「どんどんボールを動かせ」。いまの選手やコーチはそうした仕草を「ボディーランゲージ」と呼ぶ。
10月4日。ラグビーの公式戦が始まった。関東大学対抗戦の筑波大学が慶應義塾大学を30-19で破った。J SPORTSの解説をしながら、前半、コーチ時代のくせで、汗の量や表情から「筑波のFW、足が止まるのでは」と思った。
筑波は内側の防御の意識が高く、迷わず前へ出るタックルも機能している。ただし、ひとつの接点に力をふりしぼる分、疲労は進むはずだ。
だから、よく鍛えられた慶應が、心を開け放って、どんどん攻めれば、オフサイドやブレイクダウンにおける反則を奪えるのでは。そう読んだ。
ただ慶應は、前半、スクラムで優勢に映った。ラインアウトも奪取にはいたらぬもクリーンなキャッチを簡単に許さなかった。
このあたりは心理のアヤで、セットプレーの計算が立つので、試合運びが保守に傾くことはありうる。陣地を意識した筑波がキックを用いる。慶應も確実に蹴り返した。攻防が途切れず動くような展開にはならなかった。
試合が進むと、解説者として筑波の勇敢なFWにあやまりたくなった。終盤、複数の選手の足は確かにつった。でも、スコアの優位をすでに保ち、それが白黒を決することはなかった。