その他 2020.10.06

イベントに意外な参加者? サモア代表ジャック・ラム主将、1年前の日本代表戦を語る。

[ 向 風見也 ]
イベントに意外な参加者? サモア代表ジャック・ラム主将、1年前の日本代表戦を語る。
上段左から山田章仁、ヴァル アサエリ愛。下はジャック・ラム


 日本は秋だというのに、ずいぶんと薄着だな。

 2019年10月5日、愛知・豊田スタジアムである。

 ラグビーワールドカップ日本大会の日本代表対サモア代表戦を観に訪れた日本代表のファンは、観客席にサモアから来たとみられる女性を目撃する。肌寒さも感じさせるなか、肩を丸出しにしたワンピースを着て楽しそうにしていた。

 行き帰りで利用した駅の周辺でも、それと似た格好の女性が踊っていた。

 彼女たちは、いつもこのように開放的なのだろうか。

「サモアの女性はほとんどの場合が保守派。そこまで薄着で騒ぐ性格の女性は少ないです。実は」

 答えたのはジャック・ラム。サモア代表の主将で当日も先発していた。現在この国のNECに在籍する32歳のバックローは、画面の向こうへ微笑みかけた。

「そうしたダンスをする女性は少数派です。ワールドカップだったので、ファンとしてスタンドで目立ちたい気持ちもあったのでは。もしくは、日本のスタジアムの素晴らしい雰囲気にのまれたところもあるかもしれません。または、ストロングゼロを何本か飲んでいたのでしょう」

 話をしたのは試合のちょうど1年後。三菱地所が動かす「丸の内15丁目PROJECT.」のオンライントークイベント『ONE TEAM FES @ ONLINE1005』へ出た夜だ。

 ワールドカップで日本代表の右PRだった、ヴァル アサエリ愛との共演である。2015年のイングランド大会で日本代表だった山田章仁の司会のもと、当時を振り返る。

「チームに明確に示したのは、自分はあくまでチームの一員として選手とフラットであるということです。ゲームの日は名前の横に主将を意味する『C』のマークはつくが、普段は平等な立ち位置でいる。リーダーグループのミーティングでは、誰もが反感を買うのを恐れず意見を言い合える場を作ろうとしました。互いをリスペクトし合う環境作りです。リーダーで決めたことはやり抜くということ、自分たちはファミリーであるという点も意識していました」

 聞き手の関心は、当日のラストワンプレーに集まる。

 この時12点を追っていたサモア代表は、自陣ゴール前でフリーキックをもらった。7点差以内の敗戦で得られるボーナスポイントを獲得すべく、スクラムを選んだ。

 ところが、このスクラムで反則を犯して日本代表ボールのスクラムを与えてしまう。

 最後は初の8強入りを狙う日本代表がトライを記録。フィニッシャーは先発WTBで試合途中からFBの松島幸太朗だ。

 ノーサイド。38-19。日本代表は試合終了間際、4トライ以上で得られるボーナスポイントを獲得できた。初の8強入りへ大きく近づいた。

 敗れたラムは、この場面に関する質問へこう応じた。

「当初、試合を挑むにあたってはもちろん勝つつもりで挑んでいました。あのプレーが起きた時は、ボーナスポイントをもらえればプール3位以内に近づき、そうなれば次のワールドカップへ予選なしで出られるのでは…というふうに先を考えていた。スクラムをいい形で組めれば(突破力のある)BKで勝負できる。そう思いましたが、望むようにはなりませんでした」

 ちょうどそのスクラムを日本代表の最前列で組んでいたのが、共演者のヴァルだった。トンガから来日して2014年に日本国籍取得の31歳は、こう続けた。

「最後のボーナスポイントのトライ(の場面)でいいスクラムが組めた。ペナルティが獲れた。自信になってよかったです」

 イベントは、山田が聴衆に質問を求める形で進んだ。ミュートが解除されたファンが2人への思いを言葉にし、その間を山田が取り持つ。

 例えば少年ラグビーマンらしき参加者が、試合前の緊張はどうほぐしているのかと聞いた時のこと。

 ラムとヴァルがそれぞれ「私は試合前にはほぼ緊張しない。なぜなら、(試合前の)月曜から金曜までしっかり準備しているからです。パスなり、キックなり、いい準備をすることを心掛けます」「(大事なのは)一週間の準備。試合までに準備して、試合前は音楽をたくさん聴いて、緊張がほぐれる感じです」とそれぞれ答える。

 山田が「少年はいつも緊張するの? (緊張しないために)何か試したりしている?」と聞き返す。特に対策を施していないようだと見て、「準備が大切らしいよ」とまとめるのだ。

 すると…。

「お、来た! 来た!」

 試合前の緊張感について質問した少年の兄も、聞きたいことがあるのだという。誰もが世界的プレーヤーとつながれるのが、このイベントのよさだ。

 ちなみに追加質問の内容は、試合中のハーフタイムの栄養補給についてだった。ヴァルは「ちょっとでもエネルギー(源)を(補給したい)」からと、バナナを1本口にするのだという。

 参加者には、大会に出たサモア代表のリエゾン(世話係)も含まれた。その1人は、当時親交のあったラムに日本代表と再戦するならどう挑むかを問う。本人は笑った。

「タフなクエスチョンだなぁ。…ここは、リエゾンを変えるしかない! 冗談です。まじめに答えると、日本はすごくいいチームで数年前よりレべルが上がっています。戦うのが難しい相手です。80分間、自分たちのフィジカルなゲーム展開に持ち込むことが重要だと思います」

 山田は「大会中、サモア代表の皆さんは日本を楽しんでいましたか?」と聞き返す。話の流れで、鶏の唐揚げ、大手カレーチェーン店の『CoCo壱番屋』が人気だったのがわかった。

 2023年のフランス大会に向け、ラムは決意を新たにした。

「(改善点は)いろいろとあるが、チームとして集まる時間を増やすこと(が大事)。これまでは、重要なテストマッチの1週間前にチームが集まるということがありましたから。あとは、一貫して強くなるためのマネジメントも鍵。スタッフ陣が毎年入れ替わっているのですが、同じコーチ陣でできれば一貫性を持てる。もちろん栄養(の管理)も必要。(油分の多い)唐揚げはもう少し減らします!」

 ゲストとして参加の両者は現在、2021年1月開幕のジャパンラグビートップリーグに向け調整中。先般再来日したばかりのラムは「14日間の隔離生活を経て復帰しました」とのことで、ヴァルのいるパナソニックとの初戦(1月17日/埼玉・熊谷ラグビー場)を見据える。

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