【コラム】データなき、驚きの秋。
慶應はゲーム運びの焦点がぼやけた。ゴール前の力攻め。外のラン。セットプレーやモール。どこからも崩せそうで、そうなりかけて、ハンドリングのエラーや反則で逸機、想定外かもしれぬ筑波のランナー(谷山)に穴をあけられ、フィニッシャー(植村)にトライラインをゆずった。
いろいろできそうだから、簡潔に集中できない。開幕戦にはありうる。進歩の途上の「産みの苦しみ」とも解釈できる。明治、早稲田、帝京との大試合に「ここで勝負」と割り切れば、黒星発進にも、まだまだ、こわい存在だ。3年の7番、山本凱のターンオーバーには凄みがあった。
早稲田大学も青山学院大学に苦しんだ。いろいろと上回れそうで、かえって決定的な優位に立てない。身上のはずの「早さと速さ」がぼんやりしているので、個の能力やまじめな努力の成果が束にならない。どこか慶應と似た試合運びだった。情報のない筑波が相手なら危なかった。一筋の光明、14番の2年生、槇瑛人(國學院久我山)は逸材と見た。
青山学院の体を張った攻守は観客の心をとらえた。開始15分過ぎ、身長170㎝の3年生、7番の中谷玲於(京都成章)の痛覚なしのタックルがハイライト。ヒットにつぐヒットで務めを果たす。敗れて、なお、マン・オブ・ザ・マッチでもよかった。
現況では、ひとりずつの選手を試合後に取材できない。必然、帰りは早く、千駄ヶ谷駅まで観戦を終えたファンの列とともに歩いた。ひいきチームのない本物の愛好家である知人にたまたま会った。いきなり、こう言われた。
「青学、よかった。7番のタックル」
しばらくすると初見の男性に「早稲田はどうですか」と声をかけられた。
「慶應もそうですが、ことに今シーズンは、ひとつの試合だけではわかりません。それより筑波の13番と青学の7番が…」
赤黒の連覇の見通しを聞かれたのに申し訳ありません。
もうひとり。筑波の18番、新人の右プロップ、田中希門(中部大春日丘)も非凡ではあるまいか。182㎝、102㎏。後半33分に途中出場、進む時計で同49分のスクラム、板の背中でぐいぐい前へ出た。もちろん、ひとりで組むものではない。それにしたって強かった。