【コラム】聖地の匂い
アリーナ化は日本のラグビー界が「世界一」を守るよすがになるかもしれない。イングランドの聖地、トゥイッケナム競技場はロンドン都心部から公共交通を使って40~50分掛かる。ニュージーランドのイーデンパークもオークランドの中心部から約30分。ウェールズのプリンシパリティスタジアムはカーディフ駅の目の前だが、大都市からは遠い。都心のど真ん中にある秩父宮の立地は、他国にない財産である。
それは他競技や他業種の人の目にもまばゆく映る。一帯の再開発は国や東京都、明治神宮、不動産会社などが関わり、巨額のお金が動くプロジェクトとなっている。今の建て替え計画が固まるまで、「あの一等地にラグビー専用のスタジアムが必要なのか」という声は根強くあった。W杯の成功もあって今はその声は小さいが、新スタジアムが毎年巨額の赤字を出せば、将来的に同様の声が上がりかねない。
秩父宮は第2次世界大戦後、大学ラグビー部のOBが資金を出し合い、工事の手伝いまでして建てたものである。新ラグビー場がアリーナ化で財務的にも健全な運営ができるなら、先人の遺志を末永く引き継ぐうえでもプラスに働くだろう。
14日の文科省の会議では、日本協会から「国際基準のスタジアム」という要望も出された。完成後は世界大会を開く際の有力な会場候補にもなる。協会は2025年、29年の女子W杯などの招致の検討に入るが、「29年なら新秩父宮は当然、会場になる」と協会幹部。昨年のW杯の会場から外れた秩父宮で、今度は桜のジャージーが躍動するかもしれない。
日光と雨風の降り注ぐ天然芝のスタジアムから、空調の効いた人工芝のアリーナへ。形は変われども、これからも「聖地」で名勝負が繰り広げられていくことは変わらない。ユーミンの「枯れた芝生の匂い」に変わる、新しい歌詞も生まれるだろう。