コラム 2020.10.01
【コラム】聖地の匂い

【コラム】聖地の匂い

[ 谷口 誠 ]

 ラグビーは英国の村々で行われていた民俗フットボールに源流を持つ。記録に登場する12世紀以降、「競技場」となっていたのは野原や村の通り、広場が多かった。つまり、誕生の時から屋外でやるスポーツであり、雨や風という条件をどう生かすかも競技の要素だった。

 一方で「屋内球技場」のルーツもラグビー同様に古い。ドイツの歴史学者、ヴォルフガング・ベーリンガーの『スポーツの文化史』によると、1500年頃にはイタリアで屋内球技場が存在し、1598年にはパリだけで250カ所の「設備の良い」屋内球技場があったという。行われていたのは主にテニスの原型となるスポーツだったが、屋根の下の人工空間で球技を楽しむこと自体には、人類はなじみがあると言える。2017年に日本代表がフランスと対戦したパリ・ラ・デファンス・アリーナのように、近年はラグビー界でも屋根付きの競技場は増えている。

 日本のラグビー界の現状を考えても、アリーナ型の恩恵は大きい。昨年、日本代表の稲垣啓太に初心者がスタジアムで観戦する際のアドバイスを求めたことがある。真っ先に口にしたのが気遣いの言葉だった。

「寒い時期なので、見栄えを捨てた方がいい。予想以上に寒い。(防寒具などで)くるまっているような状態になることもある」。1~2月の厳寒期は熱心なファンでもつらい。まして初めてスタジアムに来た人にとっては、それだけで再訪の足が遠のくだろう。

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