コラム
2020.10.01
【コラム】聖地の匂い
密閉空間で空調を効かせることで、観客は真冬でも快適に観戦できる。雨や雪にも濡れないし、紫外線を気にする必要もない。
楕円球に触れたばかりの子供にとっても、屋根や人工芝は好ましいかもしれない。イングランドラグビー協会は自国開催の15年W杯の剰余金で、人工芝のグラウンドを多く作った。「天然芝は体が汚れるので嫌」という子供が増えていることが理由だった。
「俺たちの頃は土のグラウンドが当たり前だった。天然芝でできるなんて最高じゃなあいか」。そうこぼしたくなるオールドファンもいるだろう。英国には土のグラウンドがほとんどないという事情はあるが、現代っ子には天然芝も競技を始めるハードルになり得るという事実は、受け止める必要がある。
アリーナ化には別のメリットもある。屋根があることで音が外に漏れにくくなる。周囲への騒音を抑えられるので、コンサートなどのイベントを多く開催して収入を稼ぎやすい。
収益力を左右する屋根ができることになったのは、道を挟んだ「お向かい」となる別の施設が関係している。昨年完成した新国立競技場。総工費2500億円が高すぎるとして計画を見直した結果、工事費は大幅に減った。しかし、当初予定されていた屋根がなくなったことでコンサートなどに活用することは困難になった。施設運営の黒字化も難しいという見方が強まっている。「同じ場所に赤字を出す施設を2つもつくってはいけないという危機感があって新秩父宮を稼げる施設にすることになった」。経緯を知る関係者は話す。