コラム
2020.08.24
【コラム】続スガダイラは生きている。
「わかりますか? これ?」
高校全国トップチームの大阪桐蔭の監督が、「オン」の時とは打って変わって優しいお顔で訴えてくる。綾部正史先生の紺色の胸には「TETSUJI DISTANCE 2km」の文字。綾部先生らが内内でごくわずか自作する夏Tシャツはここ数年、知る人ぞ知る風物詩になっている。好敵手であり盟友の、石見智翠館・安藤哲治監督にむけて作られるのが常だ。
長野県上田市菅平高原で、大阪桐蔭、石見智翠館、磐城(福島)の3つ巴の練習試合を控えたピッチサイドでのやり取りだ。TETSUJIは安藤先生の下の名前だ。
「あの先生には、距離とってもらわんと。2mじゃ足りませんので、たっぷり…。先生はどこいったんやろう。2kmいうたら、あっこに見える山の上くらいかな」
目の前に本人を置いて、綾部先生のトークが止まらない。安藤先生もザ・苦笑の表情で、しかしかわいい後輩に構うように受ける。
「この人、私よりも一つ年下なんですけどね。おい、大丈夫か! いい加減にせえよ、毎年毎年」
大阪人ふたりのやりとりは、両校のライバルのあり方の爽やかさよりも、ウイルス禍がいかに彼らにとって深刻か、その当事者として戦っているのかをリアルに感じさせた。ユーモアは最後にして最強の抵抗だ。