コラム 2020.08.06
【コラム】 あなたがいたから

【コラム】 あなたがいたから

[ 直江光信 ]
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 サンウルブズは、それまでの日本になかった新しいファン層も開拓してくれた。特定の会社の社員や学校の出身者でなくても、誰もがストレートに感情移入して応援できる。そんなチームの存在は新鮮だったし、試合当日の会場周辺に広がる開放的な空気は抜群に心地よかった。年間5、6試合しか国内での試合がないにもかかわらず、5シーズンで約8千人のファンクラブ会員を集めた事実は、日本ラグビーの未来像を描くうえでのヒントになるはずだ。

 可能性を引き出してくれる場にして、実力を証明し自信を深める場であり、生き残りをかけた試練の場でもあった。だからこそ一つひとつの試合に違った意味や重みがあり、数々の印象的なシーンが生まれた。

 2016年4月23日、記念すべき初勝利を刻んだ秩父宮でのハグアレス戦。前節にアウェイのチーターズ戦で17-92の大敗を喫して開幕から7連敗となり、「もしかしたらこのまま1勝もできないのではないか…」との気配も漂いつつあっただけに、この白星の価値は大きかった。1点リードの後半39分に勝負を決めるトライを挙げ、珍しくボールを放り投げて歓喜を爆発させたCTB立川理道、試合終了の笛に顔をくしゃくしゃにして涙するキャプテン堀江翔太の姿が、そこに至るまでの苦しさを表していた。

 2017年7月15日、気温33度の東京でのシーズン最終戦(正午キックオフ!)。あまりの酷暑とサンウルブズのあくなき意欲に、23人中8人のニュージーランド代表を擁するブルーズが試合の途中で膝を屈した。「こんなすごい選手たちだってこんな負け方をするんだ」。そんな感慨を抱いたことを覚えている。

 2019年4月19日のハリケーンズ戦。2020シーズン限りでのスーパーラグビーからの除外が決定して初めて迎える秩父宮でのゲームに、選手たちの気迫はほとばしった。一発一発のコンタクトの音に、悲しみと切実さ、決意がにじむ。最終スコアは23-29。勝利には届かなかったものの、個人的に強く記憶に残る一戦だ。

 そして2020年2月1日の福岡。トップリーグと日程が重なったためチーム編成が難航し、厳しい予想が大半を占める中、フレッシュな顔ぶれが並ぶチームは、「俺たちにとってのテストマッチ」と定める開幕戦でベストパフォーマンスを発揮した。豪州勢の中では苦手な相手とのイメージがあったレベルズから5トライを奪い、参入5年目にして初の白星スタート。「この勝利で、我々が寄せ集めではないとわかっていただけたらうれしい」という大久保直弥ヘッドコーチのコメントは、なんとも言えない含蓄があった。

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