国内 2020.05.23
仲間と仕事とふるさと。大野均、現役引退会見

仲間と仕事とふるさと。大野均、現役引退会見

[ 編集部 ]
【キーワード】, , , , ,

「福島の人たちって本当に強い人たちだと思っているんです。私も、皆さんを見習ってここまでプレーすることができた。これからは地元、福島の人たちに対して自分ができることをやりたい。福島県の若い人たちの元気は、県全体の元気になると思う。まだまだ復興に関しては道半ばだと思いますが、自分たちがその主役になるという気概で、将来に向かっていってもらいたい」

「私の信条は、灰になってもまだ燃える、ですが、去年の秋ごろからヒザに痛みが出て、昨年末まで長い間、リハビリ、調整を続けてきましたが回復が見られませんでした。W杯の日本の躍進、東芝のラグビー部内では若い選手たちの台頭に触れ、頼もしく感じました。これ以上選手としてやり残りしたことがないという思えて、引退を決意しました」

 2019年末からはもう走ることも難しいほど、両膝の状態は悪くなっていた。1月から始まるトップリーグ について、これが最後になるかな、と思いながら過ごしてきたという。

 延々と続く治療、よい兆候は一向にやってこない。それが、ある日の朝、目覚めてみるとヒザが、軽い。あ、今日は走れるかな、と思って外に出た。2歩、3歩と走ってみたら、やっぱり痛みは引いていなかった。

「ああ、ここが潮時だろうと、感じました」

 3月23日、新型コロナウイルスの蔓延により、トップリーグ2020は6節を最後に中止が決まった。最終シーズンは出場記録なしとなった。

 大野選手は、どうしてそんなに大きいんですか。

 昨年末、子供たちを対象にした普及イベントで、尋ねられた時の応対が素敵だった。

「お母さんが毎日、一生懸命作ってくれるご飯を、たくさん食べたからです」

 照れた顔でマイクはがっしりと握りながら話した。万事がそんなお人柄だ。人がいてくれて自分がある、という立ち方をしている。笑顔で、大勢のファンや子供たちに囲まれていたこの頃は、思えば「走るのも難しくなったころ」だ。

「ラグビーでは自分みたいにパスが下手でも、キックができなくても、自分の得意なもので勝負できるポジションが必ずあるんですよね」

5月22日の無人の会見は、伝える相手が目の前におらず、心許ない思いで話していたに違いない。このフレーズを何度も、繰り返していた。ただ、その思いなら、彼のプレーを見てきた人ならばもう大事に受け取っていて、いつまでも胸に残す。

 現役年齢は41歳10か月と16日。日本代表キャップなら98。数字で抜ける選手はいるかもしれないが、大野均のような選手はおそらく出ない。

PICK UP