国内 2022.11.03

【車いすラグビー日本選手権・予選】 BLITZと福岡が本大会出場権を獲得

[ 張 理恵 ]
【キーワード】
【車いすラグビー日本選手権・予選】 BLITZと福岡が本大会出場権を獲得
パワフルなディフェンスが光った小川仁士(左/BLITZ)と村田和寛(右/Fukuoka DANDELION)。(撮影/張 理恵)
BLITZのディフェンスにも負けないアグレッシブなプレーで活躍した堀貴志(中央左/Fukuoka DANDELION)。(撮影/張 理恵)
JR西日本レイラーズでHOを務めた河野悟(WAVES)は車いすラグビーで日本代表を目指す。(撮影/張 理恵)
コミュニケーションを積極的にとりチームをまとめるキャプテンシーを見せたBLITZの長谷川勇基。(撮影/張 理恵)
初の公式戦を終えたWAVES。中央が結成中心メンバーの副山大輝。(撮影/張 理恵)
乗松聖矢(Fukuoka DANDELION)はプレーでもメンタルでもチームを牽引した。(撮影/張 理恵)



 10月29日と30日の2日間、「第24回車いすラグビー日本選手権大会予選 福岡大会」が田川市総合体育館(福岡県)で開催された。

 クラブチーム日本一決定戦「日本選手権」の出場権をかけ、北海道、東京会場に続いておこなわれた福岡大会には、BLITZ(東京)、Fukuoka DANDELION(福岡)、そして今年設立したWAVES(大阪)の3チームが臨み、総当たり戦を2回おこなった。
 全6試合の結果、BLITZとFukuoka DANDELIONが本大会への切符を手にした。

“世界基準”のプレーで4戦全勝のトップ通過を果たしたのは、BLITZ(ブリッツ)だ。
 今大会には少数精鋭6名での出場となったが、メンバーのほとんどが代表経験者とあって、どのラインナップが出ても安定した強さを見せた。

 初戦で新チームのWAVESをわずか1得点にとどめ53-1で勝利を収めると、10月中旬にデンマークで開催された世界選手権で日本の主力ラインナップとして活躍した、島川慎一、小川仁士、長谷川勇基の入るラインが世界レベルを見せつけた。
 さらに、「この1年間、持久力のトレーニングに励み、戦術理解という課題にも取り組んだ」という荒武優仁の成長がチームのベースアップにつながった。

 コート内で意見を交わし修正を重ねながら、ピリオドごと、試合ごとにパフォーマンスを上げ、全試合で相手チームを20点以上(※)引き離す戦いぶりは圧巻だった。
 前回の日本選手権では5位という不本意な結果だっただけに、島川は「今度はしっかり優勝で終えたい」と闘志を燃やした。
※車いすラグビーの得点パターンは、「トライ」による「1点」のみ。

 2勝2敗の2位で本大会出場を決めたのは、日本代表として活躍する乗松聖矢を擁するFukuoka DANDELION(福岡ダンデライオン)だ。
 ホームでの試合とあって、会場にはメンバーの名前が書かれた応援グッズを持ったサポーターが多く訪れ、その期待に熱いプレーで応えた。

「BLITZ戦に勝とう、という思いでチーム一丸となって臨んだ」という安藤夏輝の言葉が象徴するように、とりわけBLITZとの2試合は、立ち上がりから激しい攻防戦となった。
 チームの誰もが口にするほど、対戦にあたって大切にしたことは「コミュニケーション」。マークマンを決め、コート内でのそれぞれの動きと役割を明確にしてチーム全体で共有することで、BLITZに「手強い」と言わせるほどのディフェンスを作り上げた。

 乗松はハードワークに加えて精神的支柱も担い、コートの中でも外でも、「できてるよ」、「自信持っていいよ」、「落ち着け」とポジティブな声がけでチームメートを鼓舞し続けた。
 また、2017年に福岡でおこなわれた日本選手権予選を会場で見たことがきっかけとなり、車いすラグビーを始めた草場龍治は、地元・福岡の地で、自身がお手本とする乗松とラインナップを組みコートを駆け回った。

 伸び盛りの若手選手が多く所属するFukuoka DANDELIONが、本大会で並み居る強豪チームにどう立ち向かうのか、好ゲームが期待される。

 そして、今大会が公式戦デビューとなったのが、今年2月にチーム登録をしたWAVES(ウェーブス)だ。大阪を拠点に活動した「HEAT」以来、4年ぶりに関西のチームが日本選手権予選に出場するとあって大きく注目された。

 昨年の9月頃から急ピッチで準備を進め、わずか半年でチームを立ち上げた。「関西から波を起こして車いすラグビーを盛り上げたい」、「ビッグウェーブで他チームを飲み込んでやろう」との思いを、“WAVES”というチーム名に込めた。
 メンバーのほとんどが車いすラグビー初心者で、初の公式戦は4戦全敗という苦い結果に終わったものの、「一番大事にしている“楽しんでやる”ということはできた」と充実感をのぞかせた。

 結成の中心メンバーである副山大輝は6年前、海での事故で首の骨を折り車いす生活となった。
 リハビリ施設で車いすラグビーを知り、その施設の利用者だった日本代表の倉橋香衣と出会い、一緒に練習や話をするなかでラグビーの魅力にどっぷりハマった。

 しかし近くにチームがなく、関西でもっと盛り上げられたら、と心が動いた。
「怪我をしたけれど、何か形あるものを作ってやり遂げたい」
 そんな思いも重なり、メンバー集めに奔走した。

 副山が全力でこぐのは、BLITZのキャプテン・長谷川から譲り受けたラグ車。倉橋が橋渡し役となって長谷川とつなぎ、東京パラリンピックを終え、長谷川がちょうど競技用車いすを買い替えたタイミングだったこともあり、頼もしい相棒となる1台が副山のもとに届けられた。

「ちょうど体にフィットして乗りやすい。めちゃめちゃいいラグ車なのでよかったです」と笑顔で感想を語った副山は、「目指すのは長谷川選手のようなローポインター。正確なヒッティングにスピード、そして(障がいの比較的軽い)ハイポインターがいて欲しい場所にいつもいる。勉強になることばかりです」と話し、スキルアップを誓った。

 今大会の会場で初めて会い、あいさつを交わした副山と長谷川。長谷川は、「ラグ車を譲ってほしいと言われた時は(副山選手が)リハビリセンターに入所中で、趣味でやってくれればいいなと思って車いすを譲った。そしたら、2、3か月後に『チームを作りました』と連絡がきて、そんなにアグレッシブにやっているんだと知りうれしかった。ぜひ、がんばって続けてほしい」とエールを送った。

 またメンバーには、29歳までトップウェストAリーグに所属する「JR西日本レイラーズ」でフッカーを務めた河野悟も名を連ね、楕円球を球体のボールへと持ち替え、第二のラグビー人生をスタートさせた。

 2020年5月にウエイトトレーニング中の怪我により脊髄を損傷した河野。「大学、社会人と厳しい練習も多々乗り越えてきたので、その経験を活かして車いすラグビーでもがんばりたい。何よりもコンタクトの激しさが魅力。島川慎一選手のようなプレーヤーを目指しているので、いつかタックルで勝負してみたい」と目を輝かせた。

 プレーオフを勝ち抜き、WAVESが本大会の出場権を獲得できるのか。スタートを切ったばかりのチームが起こす新たな波に期待だ。

 福岡大会の結果により、日本選手権に出場する8チームのうち6チームが決まり、残り2枠をめぐってSLIVER BACKS(北海道)、AXE(埼玉)、WAVES(大阪)の3チームが12月のプレーオフを戦う。
 その結果を受けて2023年1月、チームのプライドをかけた頂上決戦を迎える。

 このほか車いすラグビーでは、11月19日(土)と20日(日)に、日本とオーストラリアの次世代選手たちが集結する国際親善大会「三井不動産 2022 車いすラグビー SHIBUYA CUP」(観戦無料)が開催される。
 今回の福岡予選で活躍した6名の若手選手も出場予定で、こちらも見逃せない大会になりそうだ。

◆第24回車いすラグビー日本選手権大会予選・福岡大会
【試合結果】
BLITZ 53-1 WAVES
Fukuoka DANDELION 72-6 WAVES
Fukuoka DANDELION 35-56 BLITZ 
WAVES 18-66 BLITZ
Fukuoka DANDELION 33-56 BLITZ 
Fukuoka DANDELION 67-20 WAVES

PICK UP