コラム 2022.11.03

【ラグリパWest】ポスト・クウェイドのひとりとして。野口大輔 [花園近鉄ライナーズ/スタンドオフ]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】ポスト・クウェイドのひとりとして。野口大輔 [花園近鉄ライナーズ/スタンドオフ]
ランでもチームに影響を与えるプレーをしたい。(撮影:新屋敷こずえ/KRPU)



「チャンスと思っています」

 野口大輔は率直な気持ちを口にした。ケガの当事者は不幸。チームは危機。ネガティブな感情が渦巻く中、本人にとっては「控え」の枕詞がとれる可能性がある。

 野口は花園近鉄ライナーズのスタンドオフ。3か月前、同じポジションのクウェイド・クーパーが左アキレス腱を断裂した。アルゼンチン代表戦で退場。オーストラリア代表キャップを76に伸ばした試合だった。

 花園近鉄を統御する「キング」は復帰までに9か月を要する、と言われている。34の年齢を考えれば、先行きは不透明。初のディビジョン1(一部)で戦う花園近鉄のリーグワンの開幕は来月18日に迫る。

 野口の存在が大きくなる。生え抜きの社員選手として7年目。クーパーより5歳下。特徴のひとつは長いキックだ。右も左も50メートルを超える飛距離がある。

 アタック・コーチの重光泰昌は話す。
「ウチが南アフリカ代表のようなチームなら野口は生きます。スクラムが強くて、モールで押す。キックでエリアを取って、FWお願いします、みたいな感じですね」
 重光もスタンドオフ出身だ。

 一方で重光は、その野口が現段階のチーム戦略と合致しない点も口にする。
「ただ、今のウチのボールを動かすラグビーには…。このラグビーはクウェイドがいるからやっているというのもありますよね」
 キングたるゆえんである。

 クーパーは左右のロングパスを駆使し、積極的に前に出る。ラインはスピードに乗る。チームはその動きに慣れる。とって変わる難しさを知りながら、野口は偉大な壁に挑む。

「ラインではFWの立っている裏に顔を出すようにしています。今までは僕が行く、行かないはバレバレでしたが、できるだけ自分から仕掛けていくようにしました」

 変わることをいとわない姿勢を示す。
「体はしぼれてきました」
 身長は178センチ、体重は90キロ。数値的に大きな違いはないが、前に出ることを意識した結果、余分な脂肪がとれ、走りやすくなってきた感覚はある。

 野口以外の司令塔候補は2人いる。ステイリン パトリックは野口よりひとつ上。センターができるコンタクトの強さを持つ。吉本匠(たくみ)は立命館大出身の3年目。縦への仕掛けが目を引く。積極的だ。 

 10月15日にあったスーパーラグビー、レベルズとの親善試合(17−50)は、ホームの花園ラグビー場で開催された。スタンドオフは前半40分がステイリン、後半は野口。吉本はケガで出場しなかった。

 後半、野口が登場すると「ノーグー」とその愛称がスタンドから飛んだ。中年の男性ファンからだった。野口はラグビー場がある東大阪の出身である。

 中学で競技を始めた。枚岡(ひらおか)の1年からである。この辺りは中学ラグビーが盛ん。野口も興味を持った。高校は東海大仰星に進む。
「ジャージーが格好良かったんです」
 濃紺ベースに水色と白の一本線。チームはすでに冬の全国大会を2回制していた。

 当時、監督だった土井崇司にラグビー理論を叩き込まれる。
「なんで、頭を越すキックを蹴られて、ハイパントで返すんや。ロングを蹴らんかい」
 エリア取りの大切さは野口の中に今も刻まれている。土井は今、東海大相模の中学と高校の校長をつとめている。

 高校ラグビーは全国準優勝で幕を閉じる。91回大会(2011年度)は東福岡に24−36だった。

 高校3年間は同姓同名の野口大輔がいた。
「まったく関係はありません」
 野口は6月生まれのため、「ノグ」。もうひとりは8月生まれのため、「グチ」と呼ばれた。グチは筑波大を卒業し、今は同じ東大阪市内にある高校、日新の顧問である。

 大学はそのまま東海へ。4年時、大学選手権で準優勝する。9連覇をする帝京の7連覇目。52回大会だった。得点は17−27。野口はスタンドオフ、2つ下の弟・竜司はフルバックで先発する。弟はパナソニック(現・埼玉)に進み、日本代表キャップ14を有する。昨日2日に離日した欧州遠征のメンバーにも加わった。

 野口はノンキャップだ。
「弟に対して、悔しさはありません。自分もジャパンに入りたいな、とは思いますが」
 笑むと顔全体が崩れる。弟に対する嫉妬心はない。それは世のため、人のために生きている母・孝代の存在も大きい。

 レベルズ戦の前座試合は母校の東海大仰星と報徳学園だった。土井から監督を譲り受けた湯浅大智は母とすれ違う。ラグビー場とは真逆。東花園駅の方に向かっていた。
「掃除をしに行こうと思って」
 息子の試合の当日でもボランティアを欠かさない。
「そんなんしますねん。普通にできる」
 母を見ていれば、そねみやねたみなど小さな感情を野口が持つはずがない。

 当時の近鉄ライナーズには監督だった前田隆介に誘われた。
「来て強くなった、と言われたくない?」
 近鉄グループホールディングスには総合職として入った。鉄道、百貨店、ホテルなどを150近い会社を束ねる社長になる資格を有する。野口は現在、鉄道の運輸部に籍を置く。勤怠管理など庶務業に精を出す。

 ラグビーでも仕事でも野口にかかる期待は大きい。花園近鉄のリーグワン初戦はグリーンロケッツ東葛。アウエーの柏の葉スタジアム(千葉)で戦う。
「スタートとして出続けたいですね」
 未完の大器と呼ばれることも、そろそろ卒業したい。それは、前田の殺し文句を現実とすることにもつながってくる。


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