【ラグリパWest】マイコ、再び。飯泉苺子 [東京・荏原第六中学校2年生]
マイちゃん、大阪に戻って来たん?
「はい。1年しかいなかったけど、みんな私を大切にしてくれますから」
黒い瞳は輝く。髪はカラスの濡れ羽色。ボブにした毛先は丸みを帯びる。
マイちゃんこと飯泉苺子(いいずみ・まいこ)は、マスクが手放せない中、初の里帰りをする。中2の夏休みである。
単身赴任をした父を追い、オチがないと怒られる住民総芸人の街に移り住んだのは昨年4月。予定通り、中1の一年間を過ごし、今年3月、母と妹の待つ東京に帰る。
しばらく見ない間に大きくなった?
「サンダルを履いています」
ベージュの涼しげなかかとには10センチ近いヒール。濃紺のワンピースは胸元にV字の赤白紺のワンポイントが映える。
「これは布施で買いました。800円と1000円。安くないですか?」
奈良への近鉄沿線にある下町がお気に入り。
「なんばに行けば、東京にあるお店がありますが、そんな服はどこでも手に入ります」
自分のテイストを持っている。
大阪在住の父・景弘は近鉄ライナーズのGM。現場レベルの最高責任者である。
「仕事は大変だと思います。私がいつ電話しても、誰かと話している最中なんです」
その父のため、昨年は勉強とごはん作りなどの家事を並び立たせた。今では、誰に頼ることなく、ひとりで生きられる。
通った中学は英田(あかだ)。父の仕事場である花園ラグビー場に一番近い。
「最初、読み方にびっくりしました。東京の私の周りは名前に一とか六とか数字がついて、パッとしません」
今、在籍しているは荏原六中である。
英田ではバレーボール部に入った。部の友達にLINEで戻ったことを伝えた。
「みんな、大盛り上がりだったようです。部員のみさきちゃんの家でタコパをしました」
タコ焼きパーティーはしゃべりまくりながら、タコだけではなく、チョコレートなど好きな具材を入れた。
気がつけば夜。7時間が経っていた。
「タコ焼き器が一家に一台ある、って聞いて、嘘やって思ってました。でも、本当にあった」
百聞は一見にしかず。身をもって知る。
言葉はちゃんぽんになる。
「敬語を使う時は標準語ですけど、友達と話す時には大阪弁が出てしまいます」
集合時間を聞かれて答えた。
「3時ちゃうのん、知らんけど」
東京の友は返す。
「知ってるの、知らないの、どっち?」
知らんけど、に深い意味はない。
大阪の接尾語。事実に間違いはないのだが、柔らかくするとか、若干の責任回避を含んでいる。そういうあいまいさは東京にない。
「友達も増えました。多文化に触れて、視野が広がった、と思います」