【ラグリパWest】 トップリーグの隠し玉。栗本勘司 [関大FL]
トップリーグに行く―。
そう心に決めて栗本勘司(くりもと・かんじ)は日々を送る。
関大の3年生FLはプロ野球のドラフト会議でいう「隠し玉」。中央に知られていないが、指名される力を持つ。
「僕はラグビー以外の楽しみがないので、トップリーグを強く意識しています」
日焼けした顔、181センチの身長から漂うのはアイランダー系の匂い。東南アジアを研究する文学部生でもある。
コーチの森拓郎は開口一番に言った。
「情熱がすごいです」
コロナ禍の間の個人練習では、常人離れしたスクワットに励む。重さは130キロも70キロの弟・祥平を肩車しながら、60キロのバーベルを釣りの感じで両手で抱える。15回を10セットこなした。
森はサニックスでの現役時代、日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフとFW第3列を形成した。
「栗本はザ・フランカー。体を張ります。どこに出しても恥ずかしくありません」
自分を追い込むトレーニングで、体重は昨秋よりも7キロ増の94キロにした。それでも、10メートル走はチーム1の1秒57。体を大きくして、速さは落とさない。
栗本は3兄弟の真ん中。みな、報徳学園に学んだ。弟は3年に在学中。少林寺拳法部だ。自身は野球からラグビーに移る。
「アニキに負けたくないという思いもあって、一丁やったるかあ、となりました」
4歳上の兄・悠佑もFL。龍谷大から三菱自動車水島に進み、ラグビーを続けている。
初心者のハンディを克服したのは居残り練習だった。2時間近く費やす。
「昭和の練習を延々としました。タックルバッグにおもっくそ入る、みたいな。成長している実感があって、毎日楽しかったです」
職員から「はよ帰り」と学校から追い出されるのが日課になった。
努力は実り、3年生でレギュラーになる。97回全国大会(2017年度)では登録メンバー30人中、唯一の未経験者だった。
同級生には明大に進学するCTB江藤良やFB雲山弘貴がいた。
2回戦では御所実を22-17で破る。
「試合前に勝った、と思いました。ロッカーの雰囲気がやばかったです。みんな感極まって泣いていました」
シード校倒しで記憶に残ることがある。
「えぐいタックルを決めて、次のファイトでジャッカルしたのですが、実況のアナウンサーが宮下(=大輝、現・立命大)と間違えました。がっくりきました」
関西の学生らしく笑いを混ぜる。
「プチストーリーがあって、陸上をやったアニキも初心者で、3年でレギュラーを獲って、ベストエイトで仰星に負けました」
道を示してくれた兄と歴史のかぶりがうれしい。栗本の時は20-50、兄の時(93回大会)は17-66。現・東海大大阪仰星はどちらの大会も制している。
関大進学は監督の西條裕朗に「どや?」と聞かれた。
「たずねたら、はい、と返事をする子に話を持って行ったと思います」
学業や品行や大学からの位置的なリクエストもあったが、決定打はその素直さだった。