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【連載】プロクラブのすすめ㉙ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] あらためて訴えるクラブの法人化。
――他競技とはいえ、プロクラブを持つ経験をしていたことが大きかった。
それもあったと思いますが、必ずしもそれだけではなかったとも思います。
企業は事業の分社化を普通におこないますよね。それは、その領域のビジネスを成長させていくために子分社化することで専門性を高めたり、意思決定を早くする狙いがあります。
これとまったく同じ考えのはずなんです。ラグビーも分社化し独立させて、社内の福利厚生のためではなく、ビジネスとして成長させていく。
企業の経営者であれば、この考え方はそこまで抵抗するような話ではないはずです。
――リーグの話に戻りますが、勉強会で他リーグの関係者が指摘していたのは、代表理事や理事長のあり方についてでした。現在のリーグワンでは理事長が常駐専任ではありません。どのように決めているのでしょう。
実はJリーグ、Bリーグ、SVリーグと、リーグワンの理事長の決め方は違います。
前者の3リーグは理事を決める前にまず理事長(チェアマン)を誰にするかを選考委員が考え、各クラブが票を持つ総会で決めます。
今後リーグをどうするのか、いわゆるマニフェストをちゃんと聞いた上で決めていく。理事長が決まった後に、理事長のやりたいことを叶えるための理事の体制はどうしていくかを理事長とともに考えていく流れです。
一方でリーグワンは総会でまず先に理事を選び、その中から互選で理事長を選びます。なので各クラブは理事を選考することはできますが、理事長は直接選べない仕組みなんです。
従来のアマチュアリーグでは他の競技でもすべてそのやり方でした。
ちなみに、リーグワンは2年に1回改選します。
――他競技がプロ化して変わっていったのはなぜでしょう。
アマチュアリーグでは、理事長が強烈なリーダーシップを持っていたり、リーグの方向性をズバッと示す必要がなかったのだと思います。基本的に変化を求めませんから。
それに、アマチュアリーグでは理事長の報酬を払えないので常駐専任の方を雇えなかったこともあります。また、成功された企業の経営者などが名誉職のように兼務をすることが多かったので、責任や権限を持たせたり、リスクを背負わせるべきではないということも背景にあったと思います。
アマチュアリーグでは運営がしっかりできればそれでいいわけです。だから、理事の中でその長を決めればよかった。それに理事長を常駐専任にする必要はなく、事務局長がリーグ運営を粛々とおこなえばよかった。
ただ、そうすると理事長が何をやりたいのか、理事長に何を求めるのかは明確にならないところが出てきてしまいます。
――こうした設計から変えていかないと、法人化は進まないのではないでしょうか。
大きなリーグの制度を変えるには、やはり理事長が方向性を明確に示して、その人が責任や権限を持ち、リスクを取って専任で業務にあたらないと難しいと思います。
理事の中で選んだ理事長だと、その人がどういう考え方を持っているかによってしまうし、リーダーシップをもって進めていくことも難しくなる。理事長とクラブの意見が違ってしまう可能性も出てきてしまう。
だから他のリーグでは、リーダーをまず先に決めるわけです。
リーグワンはこの狭間にいると思います。これは僕が一人で騒いでも何も変わりません。いろんなクラブの方々がどう考えているかによって、変わっていったり、このまま変わらなかったりするのだと思います。
――最後にブルーレヴズの話を。今季から新たにレフリングアドバイザーとしてクリス・ポロック氏を招聘しました。過去にはワールドカップでも笛を吹いたレフリーで、現在はニュージーランド協会でハイパフォーマンスレフリーマネージャーを務めている方です。
昨シーズンのペナルティの多さは、リーグで2位タイ。一方で2季前は一番少ないチームでした。
一気に増えてしまったことは、チームとしてギリギリのプレーで頑張っていることの表れだとは思うのですが、しっかりレフリングと向き合って正しいプレーをすることに立ち返らないといけないだろうと。
そのために一番レフリングの知見を持っている方、経験を持っている方にアドバイスをもらうことになりました。
ポロック氏は常に帯同しているわけではありませんが、要所要所で来ていただき、ミーティングに参加してもらう予定です。
この間の延岡キャンプにも来ていただいて、実際に笛を吹いてもらいました。
ここでこうすると反則を取られる、ここまでは大丈夫ということを的確に言っていただけるようで、選手、コーチともにすごく参考になったと言っていました。
――負傷者が多かったシーズンの後はトレーナーを増やしたりと、しっかり前年の課題にアプローチしている印象です。
藤井さんはそうしたことをしっかり議論できる方です。
勝つために必要なことは必ず進言してくれます。
提案はその通りだと思うことがほとんどですし、予算の都合上難しいとしても、その代わりこれを削るのはどうか、スポンサーを取れないか、と話し合いができる。
例えば11月は神戸、クボタ、三菱と大事なプレシーズンゲームが続くのですが、アウェーゲームですけど、予算縮減のために当日入りの日帰りをお願いしました。ここで費用を削減して他のところで使うためです。
ただ、神戸戦は日帰りにしたものの、選手のコンディションを考えてやはり前泊したほうがいいのでは、となりました。であれば、次の試合は主力の選手のみ前泊にしようとか、バスで行くなら宿泊の予算が捻出できるかも、といった議論を柔軟にしています。
藤井さんの柔軟な対応に加えて、チームマネジャー中村(彰)さんの臨機応変さにもかなり助けられています。
――柔軟な議論ができることも監督(ヘッドコーチ)には求められる。
はい。でも逆に譲らないこともあってほしいんです。バスケクラブの社長だった時もいろんな監督と向き合ってきましたが、中にはゴマをするような指導者もいるんです。
ここにお金を使わなくていい、マーケティングに使うのはどうか、ファンサービスをもっとやってはどうかと。
僕はその方が怖いです。本当にチームを強くすることを考えているのかなと思ってしまいます。強くするためには譲れないこともあるはずですから。
クラブにとって一番大事なことは勝つことです。
僕自身もアスリートだったのでそれを理解していますし、勝つために必要な予算をどう獲得するか、やりくりするかは一番高いプライオリティだと思っています。
PROFILE
やまや・たかし。1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任




