国内 2025.10.27

【連載】プロクラブのすすめ㉘ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 変わりゆく国内のスポーツ情勢にも対応できる芝生育成を。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ㉘ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 変わりゆく国内のスポーツ情勢にも対応できる芝生育成を。
(撮影:松村真行)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 28回目となる今回は、ブルーレヴズの2軍構想やリーグワンの課題であるスタジアム確保(芝の育成環境)について語ってもらった(10月6日)。

◆過去の連載記事はこちら

――先日、リーグワンの新規参入希望チームが発表されました。山谷社長がかねてより構想しているサテライトチーム(2軍)を申請したようですね。

 はい。ですが、申請の受付を受理されませんでした。一つの企業が二つのチームを持つことは認められていないから、という理由でした。ルールですから致し方ないですね。
 ただ、一つの提言として、検討していきますと、リーグからはお話をいただいています。

 われわれとしても、別法人を作らなければいけないのであれば、もちろん新しく作ることを検討していきたいです。
 一方で、二重登録ができる、もしくはシーズン中に何度も選手のチーム登録を変更できる、といった登録制度が変わらなければ、われわれもサテライトチームを持つ意味がなくなります。

――山谷社長は栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)の社長時代に、サテライトチーム「TGI D-RISE」を作っています。抱える人数の多いラグビーでも、同じことは可能でしょうか。

 チームを2つ持つことは、例えディビジョン2、3のチームであっても、当然コストがかかります。
 クラブやプロラグビー選手の未来のためにという構想はあっても、会社(静岡ブルーレヴズ株式会社)として支出に耐えうる価値があるかを判断しないといけません。

 試合会場が近場であれば、当日入りを強いることもあるかもしれない。厳しい環境にはなるけど、ハングリー精神を持ってやっていくようなチームになると思います。

 いまいる選手を真っ二つに分けて2チームを作ると人数が足りません。10人くらいは増やさないといけないと思います。

 なので、サテライトチームで利益を出すということではなく、コストをどれだけスポンサーや試合の興行で補えるかで判断することになります。
 いま仮に選手登録制度や会社のチーム保有ルールに変更があったとしても、2〜3シーズンは検証していくことになるでしょう。

――サテライトチームならではのスポンサーがつく可能性がある。

 あると思います。「TGI D-RISE」も、ユニフォームの胸スポンサーは1軍とは別の企業が入っていました。1軍に比べれば安価ですし、しっかり胸にロゴが入ることを「お買い得」と判断していただきました。

 マーケットの拡大にも繋がります。「TGI」はそれぞれ栃木、群馬、茨城の頭文字なんです。当時は群馬や茨城にクラブがなかったので、栃木だけでなく活動の幅を北関東まで広げていました。

 そうすることで、ブレックスでは試合開催が難しい小さな規模のアリーナ(体育館)でも、試合を開催できるようになりました。
 これは、ブルーレヴズにも当てはめることができます。なかなかD1規模の試合ができない御殿場や沼津といった静岡県東部でも公式戦ができる可能性が広がります。

 中部地区ではありますが、先日のリーグワンライジングで試合会場となった草薙球技場は、2〜3000人程度で満員になるちょうど良い規模感でした。

 われわれのホストゲームにご来場いただく方々は、浜松市民の次に(中部地区の)静岡市民が多い。
 しかも、先日の試合は3000人弱の方に来ていただきましたが、7割ほどが昨シーズンに一度も観戦したことのない方でした。ラグビーへの関心はあっても、普段は見に行けていなない方が結構来られていたのだなという印象です。

 そういう意味でも、中部地区で試合をおこなう価値は高いわけです。

 草薙での試合の後には、スポンサーとの交流会も開きました。
 例年、開幕戦の前日に磐田市内のホテルでキックオフパーティーをおこなうのですが、中部地区のスポンサー企業の皆さんが足を運びにくかったんです。

 今回は普段来られない皆さんにも集まっていただける機会になりました。
 幸いにも、ノンメンバーに主力級の選手がたくさんいたので交流会に参加してもらいました。それも含めて、すごく反響が良かったです。

――サテライトチームができれば、野球のように熱狂的な2軍推しのファンが生まるかもしれません。

 育ての親の心境のような気持ちも芽生えますし、「いま一軍で活躍しているあの選手、実はあの時にサテライトチームの試合で活躍したのがきっかけで〜」といった具合に語り草になる。ファンの人たちの興味、関心の幅が広がると思います。

 われわれが開拓できていないエリアで、2軍が公式戦をやり、活躍して上のチームに招集されることがあれば、1軍の試合も応援しに行こうとなりますよね。

 芝生の状況次第ですが、1軍とのダブルヘッダーもありだと思っています。
 ファンにとっては1日に2試合見られればお得ですし、これからどういう選手が伸びてくるかもそこで分かります。

 フランスでスタッド・トゥールーザンを視察した際に、実際にそれをやっていました。同じ会場でやればコストも抑えられます。

――話題は変わってだいぶ前の話ですが、秩父宮ラグビー場でアメフトの試合がおこなわれました。

 僕、実は4月からXリーグ(国内アメフトリーグ)の理事に就任しました。
 どちらの競技にも関わっている立場として、ぜひ見たいと思っていました。

 アメフトのフィールドは横幅がラグビーよりもだいぶ狭いなとか、いろんな気づきもありました。

 なんでラグビーの聖地でアメフトをやるんだという意見がありますが、そもそも◯◯ラグビー場や◯◯サッカー場と、興行をおこなうスタジアムの名称にその競技名をつけているのは日本だけです。

 一つの球技専有にしても、稼働率が下がるだけでメリットはありません。
 競技専有の施設を持つことに憧れが生じたり、その競技がメジャーなスポーツとして認知されるためには専用のスタジアムを持つことが大事という考え方が日本には古くからあると思います。

 かつてのトップリーグのようにリーグが試合を主催する競技団体にとっては、その競技だけで1日2、3試合組めたり、毎週末使えれば日程を組みやすいというのも背景にあります。

 海外では聖地と呼ばれる場所であっても、その競技専用のスタジアムやアリーナはほとんどないでしょう。
 アメリカでは野球場でさえサッカーやアメフトをやりますし、先日はサーキット場で大リーグの試合がおこなわれたそうです。いまではNFLの発展でアメフトが主な使途となるスタジアムも多いですが、20年くらい前まではNFLもメジャーリーグの野球のスタジアムで試合をおこなっていました。

 日本も多くのスポーツでプロリーグができてきたので、同じような流れになっていくでしょう。
 ただ、天然芝では使用頻度が高くなればなるほど芝生が荒れます。芝生をどうメンテナンスしていくか、どう養生に対するノウハウを高めていけるかが課題です。

――どうしていけば良いのでしょう。

 専門家ではないので、リクルートシーガルズのアシスタントGMをしていた時に聞いた知識になりますが、芝生に必要な要素は光と水と風です。
 海外では日照時間をどう確保するか、風通しや水回りをどう良くするか、ということからスタジアムを設計すると聞いたことがあります。

 この3つを考えた後に、どんな席種を設けるのか、VIPルームをどう作るのか、どんなデザインにするのかということを話していくんです。

 一方で日本では、完成してから日当たりや風通しが悪いことに気づいて対策を迫られたケースも耳にします。
 芝生のメンテナンスについて、海外ほど考えられていないという印象です。

 日本では、芝生の管理は養生期間を長くすることありきで考えるんです。芝生を使わないことが芝生を育てると。
 これには一定の合理性もあるのですが、何か月も使えない期間があるのは稼働率が下がるので非常にもったいない。これまでは公共施設で、プロスポーツの利用がなかったからそれで済んでいた。ニーズがないので、養生期間を長くしても困らなかったということです。

 でもJリーグやリーグワンと、これからはいろんな競技がスタジアムを利用します。
 芝生を短期間の養生で早くリカバリーできるようにする発想にならないと、技術は発達していきません。

 ラグビー界としても、ラグビーは荒れやすいと見られているのは事実なので、例えばですが1週間あれば一定のリカバリーができるということを研究して、証明していかなければいけないと思います。

 また、日本ではJリーグも含めて、芝生のペインティングがほとんどありません。

――広告のペインティングですね。

 アメフトはエンドゾーンがチームカラーに染まっていますし、ラグビーでも海外では当たり前に広告がペイントされていますよね。
 前日に塗って翌日に落とすことができるわけです。

 もちろん、コストや手間はかかるのですが、日本では芝生が傷むことを懸念しているのか、コスト以上の広告収入が得られないのか、チャレンジしきれていない分野です。

 でも、アメリカや海外でできて、日本にできない理由はないと思います。
 日本にもスーパーボウルの芝の手入れに毎年呼ばれている池田省治さん(株式会社オフィスショウ代表取締役)という優秀なグラウンドキーパーがいます。

 僕は20年前ではありますがリクルートシーガーズの練習場を池田さんにお願いして、劇的に良くなったという経験をしました。
 日本では、芝生の管理をする人が一番偉いというか、発言力があるという状況が発生しています。

 例えば、雨の日になるとグラウンドキーパーに「今日の練習はダメ」と言われるわけです。本来であればヘッドコーチが判断するべきことで、フォーメーションの確認をしたかったり、雨予報の週末に向けて雨対策もしたいでしょう。

 池田さんたちは、まずはヘッドコーチの考えを聞いてくれました。
 その上で、「このエリアは荒れているから避けて欲しいけど、このエリアであれば大丈夫」と、エリアや時間、スパイクなどを制限するという解決策を提案してくれました。

 スタジアムも同様に、興行する主催者サイドに立って、芝生の稼働率やペインティングを考えてくれる芝生の管理会社が出てくることを願っています。



PROFILE
やまや・たかし。1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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