コラム 2025.09.04

【コラム】ワーナーとマモル。2人の新しいリーダー。

[ 直江光信 ]
【コラム】ワーナーとマモル。2人の新しいリーダー。
日本代表の共同キャプテンに指名されたLOワーナー・ディアンズ。キャプテンとしてのデビュー戦となった8月30日のカナダ戦で出色のパフォーマンスを見せた(撮影:イワモトアキト)

 パシフィックネーションズカップを戦う日本代表のキャプテンが、HO原田衛とLOワーナー・ディアンズの2人に決まった。

 いずれもフィールドでの存在感は文句なし。若く、向上心と責任感にあふれ、苦しい状況で先陣を切る意志の強さを持ち合わせる。ストイックな原田とおおらかなワーナー、同じ背中で引っ張るタイプながらキャラクターが異なるところもいい。お互いに長所を引き出しあって、揺るぎなきリーダーへと成長していってほしい。

 昨年5月、大幅に顔ぶれが変わった新生日本代表が本格始動する前にインタビューした際、エディー・ジョーンズHCは新たなリーダーを育成する考えを明かしていた。しかし夏、秋のメンバー発表でキャプテンに指名されたのは、リーチ マイケルと立川理道という主将経験のあるベテランだった。

 スコッドの再構築を進めつつ結果も残さなければならない実情を踏まえてのやむを得ない判断だったと想像するが、代表チームのスキッパーとは、それだけ重圧のかかる役職ということなのだろう。

 今回は個人的な事情でリーチが参加しないこともあって2人の共同キャプテン制という形になったが、さまざまな状況を考えても、新しいリーダーを指名するベストのタイミングだったと感じる。ホームでのカナダ戦、アウェイでのアメリカ戦、さらにアイランダー勢とのプレーオフと徐々にゲームの強度がレベルアップしていく試合日程は、成長過程のキャプテンおよびチームにとって最適なスケジュールだ。3週間にわたる海外遠征を通じてメンバー、スタッフ全員が長く同じ時間を過ごすことも、一体感と求心力を高める上で絶好の環境といえる。

 そして、国を背負うナショナルチームの先頭に立つことは、プレーヤーをひと回りもふた回りもたくましくさせる。「立場が人を育てる」というやつだ。

 8月30日の宮城県はユアテックスタジアム仙台。カナダとの初戦で見せたワーナーのパフォーマンスが、まさにそうだった。

 イージーエラーや不用意な反則を連発し、リズムをつかめないまま10-10で迎えた前半37分過ぎ。ラックサイドを力強く突き抜けて膠着状況を打破する勝ち越しトライを挙げる。後半13分には自慢のチョークで相手ボールをもぎ取ってSH福田健太の50:22キックとその後のNO8ファカタヴァ アマトのトライを引き出し、続くキックオフレシーブから30メートル以上の圧巻のビッグゲインを見せてゲームの流れを決定づけた。

 終わってみれば57-15の完勝。初めて大役を務めたテストマッチで、みずからのプレーによって仲間を鼓舞し勝利へと導いた経験は、今後キャプテンとしてキャリアを積み重ねていく上での大きなエナジーとなるだろう。前半は自滅から苦しい戦いを強いられたが、結果的にはそれも意義のある試練だった。

 1年前の6月、宮崎合宿の最中にワーナーに話を聞く機会があった。チームの中でどんな存在になっていきたいですか――と質問すると、こんな答えが返ってきた。

「ラグビーに年齢は関係ない。試合に出ているということは、メンバーの中で一番の選手だということ。その自信と責任を持って、体を張って前に出てリードしていきたい」

 さらに続けた。

「キャプテンをやった経験はありませんが、やってみたい。今はまだうまくできるかわからないし、他にもっとふさわしい選手がいると思いますけど。エディーから指名されたら、喜んでやります」

 コンディションの問題でカナダ戦を欠場した原田にとっても、ワーナーの活躍は大きな刺激になっただろう。こちらは「キャプテンよりもバイスキャプテンが一番合っていると思う」と自称する控えめな性格ながら、ラグビーへの向き合い方やフィールド内外でハードワークする姿勢は現代表でも随一と評される。ワーナーがそうだったように、大役を担うことがプレーヤーとしてひと皮剥けるきっかけになる可能性も十分ある。ぜひ今大会のどこかで、キャプテンとして出場する機会をつかんでほしい。

 ちなみに昨シーズンのパシフィックネーションズカップを前におこなった立川理道と坂手淳史の対談企画で、次世代の代表キャプテン候補として真っ先に挙がったのがワーナーと原田の名前だった。またジョーンズHCは、今回のキャプテン選定にあたりリーチからこの2人を推薦されたことを明かしている。

 そのリーチに先日インタビューした際、印象に残ったのは、日本代表のキャプテンに必要な能力として「コーチ陣とやり合えること」と語っていたことだ。

「(日本代表で)勝ちたいという選手はたくさんいます。でも、勝つためにコーチ陣といろんな議論をして、意見を主張するところまでやれるかどうか」

 左の眉を人差し指でぐっと押し上げながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「エディーの眉毛がこんなになる。本当にきついし、大変です。でも、そこできちんと話をしなければならない。それをやらないと勝てない」

 試練は人を強くする。今回のパシフィックネーションズカップが、ジャパンの新しい2人のキャプテンが飛躍を遂げる舞台となりますように。

【筆者プロフィール】直江光信( なおえ・みつのぶ )
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長

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