国内 2025.04.28

【連載】プロクラブのすすめ㉔ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 求む、プレーオフのホストスタジアム開催。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ㉔ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 求む、プレーオフのホストスタジアム開催。
(撮影:松本かおり)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 24回目となる今回は、プレーオフの課題、スポーツクラブ経営において山谷社長が大切にしている考えなどを語ってもらった(4月24日)。

◆過去の連載記事はこちら

――第15節で東芝ブレイブルーパス東京を破り、バイウィーク前にプレーオフ進出が決まりました。

 リーグワンとなってからは初めてで、ヤマハ発動機ジュビロ時代から含めても久々のプレーオフ進出です(上位チームが参加するプレーオフ進出はトップリーグ2018-19以来)。
 非常に喜ばしいことですが、チームとしてはここが目標ではありません。プレーオフで勝ち上がり、最終的に優勝を目指しています。

 ただ、事業面から見ればプレーオフ進出は一つ大きなトピックです。しっかり集客やグッズに生かせるように動いています。
 プレーオフ進出が決まる1か月ぐらい前から想定し、こういうスローガン、こういうグッズを作ろう、こういうツアーやパブリックビューイングを実施しようと、かなり議論を重ねてきました。

 準々決勝で勝てばこれをやる、準決勝に勝ったらこれをやる、優勝したらこれをやるといった感じで、戦績ごとにどんなことをするのか、そのタスクを挙げています。
 例えば優勝したら優勝報告会やパレードはどの日程で、どういうオペレーションでやるのかといった議論も始めています。

 もちろん、チームからすれば気が早いと言われてしまいますが、事業はいろんな状況を想定して計画しないといけません。

――山谷社長はこうした時にしっかりとマネタイズするために、まずは事業スタッフの増員から始めました。その効果は感じますか。

 そうですね。ただ、ブルーレヴズとしては初めての経験です。まだバタバタしているところもありますし、これが足りなかったということもあります。

 それでも僕も含めてバスケや野球など他競技の分野で優勝を経験してきたスタッフがいるので、上手く議論を進められていると思います。

 特にグッズは優勝できればいろんなアイテムを製作できます。昨シーズンに続いて伸びていますし、売り上げは昨シーズンの6900万円はすでに超えていて、今シーズン目標の8500万も超えるのは確実です。優勝できれば1億2000万くらいまで上がるのではないでしょうか。

 ただ、いろんな試算をしているのですが、プレーオフに進出したとしてもトータルでは大きな黒字を出すことはできないのが実情です。
 優勝すればリーグから賞金がもらえたり、出来高のスポンサー契約をしているケースもあるのですが、一方で選手に対するインセンティブ報酬も発生します。

 長期的に見れば次シーズンのスポンサーがもっと増えたり、単価を上げられたり、集客を増やすことには繋がるので、プラスであることは間違いありません。
 ですが、短期的なお金の出入りだけ見ると、実はそうした台所事情なんです。

 リーグには申し訳ないですが、もう少し賞金設定は頑張っていただきたいです(昨季は1位=5000万円、2位=2000万円、3位=1000万円、4位=500万円)。ラグビーは人件費が膨大ですし、他のスポーツでは優勝賞金が1億円に超えているリーグもあります(Jリーグ=2億円、Bリーグ=5000万円、SVリーグ=3000万円)。

 日テレはもちろん、日本選手権が開催されていた時のようにNHKの地上波でも放送されれば、露出が増えて広告価値も上がり、リーグも収入を増やして賞金を増額できると思うのですが…。

――プレーオフでクラブがマネタイズするためには、どうすれば良いのでしょう。

 僕や他のクラブの方も、リーグの(各クラブのGMらが集まるリーグの)実行委員会で訴えているのがプレーオフのホストスタジアム開催です。
 現行のリーグワンでは、プレーオフのすべての試合がリーグ主催。ですが、他のスポーツでは決勝は中立地であっても、準決勝まではリーグ戦上位チームがホストゲームを開催するのが当たり前です。

 リーグ戦で順位を上げることによるクラブのインセンティブは、本来であればホストスタジアムで試合を開催できる権利を得ることに尽きるんです。

 移動が少なくて済むことがメリットくらいにしか、いまは思われていないかもしれませんが、クラブにとっては収益を上げる機会をもらえる大きなチャンス。
 プレーオフでホストゲームを開催できればおそらく超満員になり、チケットの単価も上げられる。広告の価値も高まります。

 しかも、今シーズンはわれわれがこのまま4位で、神戸さんが5位でプレーオフに進出した場合、準々決勝は花園なので順位が上なのにアウェーになってしまう。
 これでは順位を上げる意味があるのだろうか、と思ってしまう。

 3位と6位が争う準々決勝はもっと顕著です。順位は大きく違うのに、プレーオフに進めさえすれば3位にはさほど恩恵はありません。
 もちろん、順位が上がればより下位のチームとの対戦になりますが、実力が拮抗している中ではそれもあまりインセンティブがない。変な話をすれば頑張って3位にならなくても6位でも一緒ではないか、となってしまう。

――来季にもホストゲーム開催となれば良いですね。

 スタジアムが確保できなかったり、キャンセル費用もかかるという話も出るのですが、一方で入替戦はホスト&ビジターで2試合おこないますよね。
 シーズン終盤まで順位が分からない状況なのはどちらも変わらないので、入替戦でできて、プレーオフでできない理由はありません。

 まずは各クラブがスタジアムの確保に努め、それでも確保が難しいクラブが出場した場合にはバックアップとして花園や秩父宮を使えばいい。そうすれば、試合自体ができないということはないはずです。

 今シーズンのD1では、12チーム中10チームが秩父宮か花園のいずれかをリーグ戦のホストゲームとして使用しています。
 このままだと、その2会場でホストゲームをしないわれわれとワイルドナイツさんにとってはどこのチームと当たっても花園か秩父宮でやるわけですから、実質的に相手のホームアドバンテージがある状況なんです。

――チームの話題に戻ります。山谷社長が就任して4シーズン目ですが、仕掛けてきたことが花を開き始めていると感じます。

 チームを僕がどうこうしたということはないのですが、着任したときは課題をひとつずつ解決していかなければいけない状況でした。

 ブルーレヴズとなって最初の練習試合で豊田自動織機さんに敗れ、開幕前の練習試合ではパナソニックさんには0-54で完敗しました。
 遡れば、最後のトップリーグもプレーオフでクボタさんに大差で負けています。

 チームが少し混乱していたり、取り組みに一貫性がなく選手の頭がクリアになっていないと感じました。
 良い選手を獲得して育てることも大事なのですが、選手の能力を100パーセント出し切れるような環境をまずは作らなければいけないなと。

 3年目にはトレーナーの人数を増やし、ケガを最小限にできるように、ケガをしても早期の復帰と再発を防げるように努めました。
 コーチングスタッフも、より明確な一貫性を持ってチームづくりができるような監督、限られたリソースであってもその力を最大限発揮させることができる監督を探しました。

 最近の選手のインタビューを読んでいると、やることが明確になった、ラグビーをしていて楽しいというコメントがよく出てきています。
 頻繁に練習を見ているわけではありませんが、選手の表情を見ても頭がクリアな状態で気持ちよくプレーしているように映ります。

 個人的には、僕がリクルートシーガルズ(現オービックシーガルズ)のアメフト選手だった時や、栃木ブレックス(現宇都宮ブレックス)の社長をしていた時と重なります。
 どちらも下馬評では優勝できないと言われていたチームが、シーズン中に成長し、プレーオフでも成長して優勝しました。その時の雰囲気と似ているんです。

 シーズンが深まるにつれて課題を解決できたり、良い試合ができるようになってきた。東芝戦もそうでしたが、上手くいっている状況が重なってきた時のチームは本当に強いんです。

――茨城ロボッツでも瀕死だったクラブをB1に昇格させてからブルーレヴズに来ました。なぜ、各チームで成績を残せるのでしょう。

 そこに一番こだわっているからだと思います。
 スポーツチームの経営は勝っても負けても安定した経営が求められるし、試合の勝敗はコントロールできません。それよりも、地域貢献に力を入れるべきだという意見もあります。

 それはその通りだと思いますが、一方でメインのコンテンツはやはり勝ち負けを争うことであって、僕自身が選手やコーチだったこともあるのでやっぱり負けたくないんです。
 強いチームを作り続けることを怠ってはいけない。現状がどんなに弱くても、その状況で最大限の結果を出すことが支援してくれた人、見に来てくれた人に対する一番の恩返しだと思っています。

 ゴールから逆算して、何をすれば成果の出る確率が上がるのか、それをずっと考えてきました。
 いまの状況をいかに良くしていくか、足りないものをどう補うか、どういうコーチを連れて来ればいいのか、お金が限られる中でどういう選手を獲得すればいいのか、などをひたすら考えることで、勝つ確率が上がっているのだと思います。

 そうしてもがいたり、必死に動いたりしていると、いろんな出会いや縁ができたり、アイデアや知恵も生まれてきます。

――そうした考えに至った原点はありますか。

 やっぱりアメフトをしていたことが大きかったと思います。
 アメフトは戦術や作戦を深く考えないといけない。試合の傾向や相手の得意、不得意などいろんなことを分析しながら、毎プレーで確率の高いサインを選択しないといけません。

 僕はラグビーでいえばフロントローのようなポジション(オフェンスライン)でプレーしていましたが、作戦をみんなで考えたり、コーチと議論することはずっとやってきました。
 現役引退後はコーチとして、サインを出す役割も担いました。自分たちと相手の状況を見て、最善手は何かということをひたすら考えてきました。

 経営コンサルティングの会社にいた時も同じ発想でした。
 経営に正解はない中で、できる限り会社を良くしていくためにどういうアプローチをするべきかを考えてきました。

 そういう人生を歩んできたので、普段から理屈っぽいんですよ。家族にこんな調子で理詰めて話していたら絶対に怒られます…(笑)。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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