【連載】プロクラブのすすめ㉓ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] スポンサー収入が4億円突破。
![【連載】プロクラブのすすめ㉓ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] スポンサー収入が4億円突破。](https://rugby-rp.com/wp-content/uploads/2025/04/ph23.jpg)
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
23回目となる今回は、選手採用の裏側やスポンサー獲得の術などを語ってもらった(3月19日)。
◆過去の連載記事はこちら
――社長自身は最近、どんな活動が多いですか。
変わらず営業に出かけることが多いですが、いまは静岡県主催の「しずおかスポーツ産業ビジョン策定検討会議」のメンバーとして、今後、静岡のスポーツ産業をどうしていくかを検討していく議論に参加しています。
これまではどの自治体もスポーツの政策に関する議論は、県民の運動実施率向上や、子供たちやご年配の方、障がいを持った方などすべての人たちがスポーツに参画できる機会の創出といった話が中心でした。
もちろん、それも大事な政策ではありますが、スポーツを産業として捉えた議論はあまりなかったんです。
静岡県にも「スポーツ推進審議会」がありますが、そのメンバーは学校の先生や競技団体の方、指導者の方が中心です。そこで、スポーツ産業については切り出して議論するべきと意見したところ、冒頭でお話しした会議体ができました。
Jリーグのジュビロ磐田や清水エスパレス、Bリーグのベルテックス静岡の社長もメンバーに入っています。
われわれも含めて静岡にはこれだけのプロスポーツチームがあるのですが、スタジアムやアリーナが充実しているとは言えません。
実は浜松の新スタジアム(詳しくは第14回)の他にも、エスパレスさんを中心に清水にも新しいスタジアムを作る構想があります。さらに静岡市内にもアリーナを作る話もがあります。
現状われわれがスタジアムの建設に直接関わることではないのですが、スポーツを産業として伸ばすためには、スタジアムやアリーナはこうあるべきだという意見を届けることはできる。何らかの良い影響を与えられればいいなと思っています。
リニア新幹線が開通すれば、通過される県になります。そうなった時に静岡に来る目的を持った人を呼び込むためには、プロスポーツが必ず重要になる。
国のスポーツ産業についてはスポーツ庁が中心となり、「スポーツ未来開拓会議」などで議論されていますが、県単位でスポーツ産業に関する方針を出すための会議は、あまりやっていない。静岡は非常に前向きに取り組んでいると感じます。
――チームの話に移ります。終盤戦に突入しますが、チームはプレーオフ進出圏内の4位をキープしています。
チームの躍進には本当に目を見張るものがありますし、シーズンを通して成長していると実感しています。
北村(瞬太郎/SH)選手やヴェティ・トゥポウ(FL)選手は(実質)加入1年目ですっかりレギュラーに定着しましたし、作田駿介選手(HO)、矢富洋則選手(WTB)、岡﨑颯馬選手(CTB)などがプレータイムを得たり、第12節のブラックラムズ戦ではアーリーエントリーの稲場(巧/PR)選手、新加入の(SHのサネレ)ノハンバ選手もデビューしました。
新たな選手が台頭してくるのは、シーズン中にチームが成長している証です。良い競争ができているのだと思います。
――特に若手の台頭が目立ちます。それは2023年度加入の選手からスカウトを担当している西内勇人さんのリクルートが上手くいっているということ。
そうですね。ブルーレヴズに必要となるポジションの選手を、キャラクターをしっかり見極めてきた中でチョイスしてくれています。
西内さんとは定期的にミーティングをしています。いまどんな候補者がいるのか、なぜその選手を選ぶのか、を議論します。
藤井(雄一郎監督)さんが入る時もあれば、入らない時もあります。中長期的な話であれば、僕と西内さんがマネジメントの立場として話します。
われわれは予算が潤沢にあるクラブではありませんが、年俸の高い選手だから最初から諦めるということはしません。まずは検討のテーブルに上げようと。そこで本当にチームに必要かどうか、予算と睨み合いながら考えています。
――ダミアン・マーカスはシーズンの序盤に負傷離脱しましたが、ノハンバが途中加入しました。昨季のURCシーズンMVP(南アのクラブ対象)に選ばれた有望株。かなり投資している印象もあります。
そこは西内さんの経験と目利きスキルで、お金だけではない魅力をしっかり伝え、選手をスカウトしてくれています。
彼は常に世界中の映像を見て、これから伸びてくる選手、こんな選手がいるのかという掘り出し物をよく探してくれる。
ノバンバ選手についても、リサーチや交渉を機動力高くやってくれました。獲得までのジャッジを即座にできるのは独立法人化しているクラブの強みだと思います。
――金銭面の話を続けると、ヤマハ発動機(ブルーレヴズはヤマハ発動機の100%子会社)の決算は12月末でしたね。
ブルーレヴズは当初、2024年度は赤字の計画だったのですが、なんとか最終的には黒字にすることができました。
そこはチーム側も予算を取捨選別することを理解してくれましたし、ヤマハ以外のスポンサー収入も目標をギリギリクリアできました。
スポンサー収入はこれまで3億円台が続いていたのですが、今シーズンは4億円の大台に乗りました。
――スポンサーについては営業スタッフを増員して、対策すると過去の連載で話していました。
営業担当それぞれの行動量が上がったのも要因としては当然ありますし、大きかったのは地元の静岡銀行さんによる「ビジネスマッチング」です。
銀行には地元企業の経営者とのパイプが当然あり、会社の財務状況をはじめ経営者がスポーツの協賛や地域貢献に熱心かどうかを知っています。
われわれがアプローチしきれていない地元企業を紹介してくれるわけです。そこでスポンサーが決まれば対価として手数料をお支払いしますが、社数はだいぶ増えたと感じています。
――以前は利用していなかった。
以前からそうした仕組みがあることは分かっていたのですが、今シーズンはうちの営業担当が銀行の各地域の支店回りをしたんです。
そこで支店行員の営業の方に集まっていただき、ブルーレヴズの紹介やスポーツスポンサーシップの勉強会をさせていただいた。そうしたいわゆる渉外活動が、じわじわと成果として上がってきていると感じます。
IAIスタジアム日本平のホストゲームではサードジャージーを着用しますが、JR東海さんがスポンサーになってくれました(右胸にロゴ)。
これまで静岡のプロスポーツチームに協賛することはあまりなかったそうなのですが、今回われわれが「ALL SHIZUOKA」をコンセプトにしたサードジャージーに共感をしていただきました。
また、そのサードジャージーには選手の名前を背中に入れています。ラグビー界では日本で初めてだと思います。
――名前入りジャージーは、この連載を始めた1年目から話していた構想でした。
いつか実現しようと思っていたところ、今回ようやく実現できました。
試合直前のプレス機でのプリント作業はめちゃくちゃ大変だと思います(インタビューは試合2日前)。バックアップメンバーも含めて作らないといけませんから。でも、こちらも地元の企業の協力もあってスムーズに作業することができました。
――1試合限りのサードジャージーだからこそできることなのですね。
そうですね。普段のジャージーに入れることは作業的には可能ですが、そうするとジャージーの枚数が膨大になる。
レギュラーの選手でも背番号が変わる可能性もあるし、選手によってサイズも違う。そこに選手名も入れるとなると大変です。
マジックテープで付け替えたりできるといいのですが…。剥がれてしまうでしょうね。
――以前も話しましたが、背番号と選手が紐づかないのはグッズ販売としては痛い。
みんな、背番号17の入った大谷翔平選手のTシャツやユニフォームが欲しいわけですよね。野球やバスケ、サッカーを見ても、背番号と名前が入っている。ラグビーにも同じ発想があってもいいと思っています。
リザーブのメンバーはポジションと番号が必ずしも紐づいているわけではありませんし、試合の中で10番と15番がポジションを変わることもありますよね。リーグワンの独自ルールとして選手の背番号を自由化するのも一考に値するのかなと思っています。
世界のラグビー界ではあり得ない発想かもしれませんが、そんなことにもリーグワンが率先してチャレンジすることに意味があると思っています。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任