【連載】プロクラブのすすめ⑭ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「浜松に新スタジアムを!」
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
14回目となる今回は、リーグワン2023-24のホスト開幕戦、2戦目などを振り返り、今季の抱負を語ってもらった。(取材日1月25日)
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――2024年になってから初めての連載となりました。まずは12月17日のホスト開幕戦(第2節)を振り返ってください。
観客動員数は1万2841人でした。(満員の)14000人を目指していたので物足りなさは感じます。ただ、ブルーレヴズとなってからは最多ということで、一定の成果は見えたと思います。
前週まで暖かかったのに急激に冷え込んだり、風が強かったりと、当日の着券率には少なからず影響したと思います。
われわれはスポンサーのご協力をいただいて、静岡県内で選手登録をしている人はいつでも試合を見られる「プレイヤーズパス」という取り組みをやっています。そうした招待は、どれだけ来場するのかが未知数で、当日の天気や気温がかなり影響します。
――1月13日のホスト2戦目(第5節)は観客動員6465人と落ち込みました。
バスケでもそうだったのですが、正月明けの集客はめちゃくちゃ難しいです。寒い時期ということもありますし、クリスマスや正月などのイベントが終わって一旦消費が落ち着いてしまう。ただ、平均8000人を目指している中では、ギリギリ及第点だと思います。
サントリーさんが相手でしたので、クワッガ・スミス選手対サム・ケイン選手の対決など、既存のファンに魅力的に映るような仕掛けをやりながら、まったく別角度の仕掛けにもチャレンジしました。
前回少しお話ししましたが、20代のスタッフが企画を考える「U29企画」を走らせ、ラグビーに接点のない若い人たちを呼び込む取り組みをしました。TikTokでバズっているアーティストを呼んだり、インスタ映えを狙った企画であったり。僕らの世代では発想できないことで、彼らならではのことができたと思います。これが功を奏して、普段見ないような若いファンの方もたくさんいました。
次のライナーズ戦(1月27日/第6節)も厳しい状況(5255人)でしたが、この日は磐田市内の中学2年生全員(約2000人)を招待しました。磐田市に予算を組んでいただき、実現しました。これまでサッカーでは小学生の全校招待という企画があり、ラグビーでもやりましょうと。ラグビーは少しルールが難しいので中学生を対象にして、受験を控えていない2年生となりました。そうした戦略を(集客の難しい)1月に充てられたのは大きいです。
ここを乗り越えれば、次は3月以降はパナソニック戦など良いカードがホストでできます。暖かい季節になれば、また1万人を目指せる。平均8000人という目標数値を狙える状況のままこの1月を乗り越えられたのは、工夫を凝らしたスタッフの努力の賜物です。
――一方で首都圏の試合を見ていると、同じ1月でも集客は好調でした。
W杯を見て来場する方々は、なんだかんだラグビーファンだと感じています。もともとラグビーが好きだったり、リーグワンは見ていなかったけど学生やW杯であれば見る、みたいな。そうした既存のラグビーファンが反応して、そもそも人口の多い首都圏では観客が増えていると見ています。
冷めた見方に思われるかもしれませんが、昨年W杯があっても一般の方々まではリーチできていない印象です。同じくW杯のあったバスケを見ていると、バラエティ番組に出たり、スポーツニュースで必ず取り上げられていたり、お茶の間で見る機会が増えました。日本代表が予選を突破できなかったこともあるとは思いますが、現在ラグビーはそこまでいけていない。
W杯前は淡い期待もありました。ですが、リーグワンの認知度はW杯という飛び道具を持ってしてもあまり上がらないのかなと。
リーグワンの各チームが自分たちのホストエリアでラグビーに興味のない人たちをいかに引き寄せるのか。それを真剣に考え続け、取り組み続けることが、ラグビーファンの底上げになる。これを全国各地でやり続けたから、Jリーグという日常の基盤があるサッカーは、日本代表が活躍すればドッと盛り上がる。
W杯という打ち上げ花火のイベントだけでファン層を拡大するのは難しいと、今回あらためて実感しました。このままではW杯のたびに一過性の盛り上がりとなり、定着したり継続して人気が伸びていくことはない。極端な話ですがW杯で日本が優勝してもいまのリーグワンのままではその時の盛り上がりで終わってしまうと思います。
リーグワンの各クラブのファンベースがあって、各クラブが事業として成功していることがセットでないと一過性で終わる。さらにはそうしたことを競技人口の拡大にまで繋げていかなければいけません。
――レヴズはこの3シーズンで、ファン層を拡大できている実感は。
われわれは招待券を配るにしても、必ず無料のファンクラブ会員になってもらっていました。そうした方々が今度はチケットを買って見に来てくれるケースが確実に増えているんです。
コロナが明けたのもありますが、それまでラグビーに関心のなかった方が着実にレヴズのファンになっていただいている実感があります。
飲み屋でラグビーやレヴズの話題を聞くこともありますし、地元のテレビや新聞にも取り上げていただくことが増えました。
(昨季王者の)クボタさんに勝った時は本当に大きく取り上げていただきました。それは地方にしかできないこと。それだけに、(ホスト開催の)神戸戦もサントリー戦も勝ちたかったですね。クボタさんに勝利したような試合をホームでできれば、(集客も)かなり高まると思うんです。
ただ、チームは確実に良くなっていると感じます。藤井(雄一郎)さんのやろうとしていることがだいぶ浸透してきていますし、選手の表情を見ていても迷いなくやっているように見えます。
――2月はクロスボーダーマッチが開催されます。レヴズはどう過ごしますか。
2月4日から1週間、別府で合宿をします。(W杯前に日本代表に鬼練習を課した)ジョン・ドネヒューさんのセッションをまたやるそうです。
選手にとってはタフだと思いますが、あのセッションでコンタクトレベルが変わった感じがします。厳しい練習を乗り越えたという自信も表情にあらわれている。
――あらためて、2024年になりましたので、今年の抱負をお願いします。
僕自身は(社長として)チームづくりも、ビジネスも、将来のことにしっかり向き合って仕事をしたいと思っています。普段の興行は(社員やスタッフで)しっかり回るようになってきました。5年後、10年後を見据えて、世界を魅了するクラブに一歩でも近づけるようなことができる年にしたいです。
藤井さん体制となり、3シーズン以内に日本一になることを目指しています。今年はその1シーズン目。まずはプレーオフ出場を目指せる基盤を作りたいと思っています。そこから優勝を狙う準備をして、3シーズン目に優勝争いが本当にできる状況に持っていきたい。現時点(第6節を終えて5位)では順調に進んでいる気がします。
ビジネスでいえば、静岡県が浜松の遠州灘海浜公園内にスタジアムを建設する動きがあります。もともとは「浜松新野球場」という名で進められていたのですが、いま、浜松市や商工会議所は2万人規模の「多目的ドーム型スタジアム」への変更を要望しています。
プロ野球球団(1軍)が静岡にはありませんので、サッカーやラグビーができて、コンサートやモトクロス(オートバイ)も開催できる、浜松らしいスタジアムにすべきだろうと。
僕はこのことを講演会でお話ししたり、議員さんを回って説明したりして、だいぶ理解を得られるようになってきたと実感しています。最終的にどういう計画を作るかは県が決めるのでどうなるかは分かりません*。ただ、機運が高まっているのは事実。引き続き働きかけたいと思っています。
*県は2月の県議会で基本計画の素案を提示し、6月の県議会で基本計画の正式決定を目指している
新スタジアムができれば、将来的に収益構造を大きく変えられる。ドーム型であれば観戦環境が良くなり、客単価を上げられる可能性があります。
Jリーグが春夏制になることで、先々のスタジアム状況がなかなか決まらない課題をリーグワンはこれから抱えます。そうすると、シーズンチケットが売れなくなる。日程も場所も分からなければ、さすがに買えない人が多いですから。自由度高く確保できる新スタジアムができれば、そうした課題も解消できます。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任