悔しさ晴らす独自の自主練。ブルーレヴズで躍動の北村瞬太郎は「謙虚を学んだ」。

北村瞬太郎が給水ボトルをさかさまにした。中身を絞り出した。
芝生とそこへ転がる楕円球を濡らし、ボールのほうを持ち上げてはさばいた。
それが4月3日の自主練習だった。磐田市内の本拠地を引き上げる際、本人が思いを述べた。
「あの時は、悔しすぎて…。今週、ずっとやっています」
ここでの「あの時」とは3月29日。悪天候に見舞われた東京・秩父宮ラグビー場で、加盟する国内リーグワン1部の第13節に北村は出た。今季11度目の先発出場も、戦前の順位で4つ下回っていた東京サントリーサンゴリアスに敗れた。17-22。
アタックの起点たるSHとして首尾よく戦えなかったと感じ、対面で元日本代表の流大に感嘆するほかなかった。
「流さんは雨でも晴れでも関係なく、自分のところでミスが起きない。僕は2~3個あった。ちゃんと映像を見て、吸収できることは全部吸収したいです。(流は)焦っていない。どんなにきれいな(ボールの場所が見えやすい)ブレイクダウンでも(お互いが入り乱れて)汚いブレイクダウンでも、自分のテンポでやっている。僕だとちょっと汚いブレイクダウンだと焦って頭を突っ込んで(パスを)出そうとして、それがノックオン(落球)に繋がる」
これからは似た状況でもうまく攻めたいからと、週明けからずっと件のトレーニングを重ねていたのだ。
「あそこで(さばく瞬間に)ボールのスピードが落ちると、自分たちのやりたいラグビーができない。責任を持ってやりたいです」
現役時代にジャパンのSHだった矢富勇毅アシスタントコーチに「今週は晴れだからいいだろ」と諭されても、行動は変えなかった。
4月5日には、ホスト会場のヤマハスタジアムに立つ。三菱重工相模原ダイナボアーズとの第14節で、再びスタメンを張る。
実質1年目となる今季のレギュラーシーズンは、今度のバトルを含め5試合ある。
目下12チーム中4位と6傑からなるプレーオフ行きへ近づきながら、何より、新人賞受賞や初の日本代表入りへの期待が高まる中、ルーキーは地に足をつける。
「流さんのプレーを見ていると自分はまだまだ。僕のところで起こるミスは、リーグワンのSHのなかでも多いほうだと思います。それをまず、治していかないと」
小学2年から横浜ラグビースクールに通い、國學院栃木高、立命大で主将を務めた。特に大学時代は鋭いサイドアタックで関西学生シーンを席捲。それがリーグワン参戦に繋がったのだから、ブルーレヴズでもそのスタイルを貫こうとした。
アーリーエントリーの扱いでプレーした昨季、下されたジャッジは「このままでは一生出さない」。指揮官になりたてだった藤井雄一郎に、この旨を告げられた。
無理に仕掛けて球を奪われたり、流れを停滞させたりすることが多かったようだ。
何より藤井体制のブルーレヴズは、あちこちに強力な走者を配し大胆に展開するのを目指していた。SHには「強気」の姿勢より、賢さと素早いパスアウトを求めた。
定められた方針に伴い、北村がしたのはマイナーチェンジだった。
接点へ駆け込んでは投げる。その繰り返しに注力した。次第に信頼を掴み、最初は少し縁遠かったメンバー入りを今季はたくさん叶えられるようになった。
チームの型に沿っていると、自分の前にスペースが生じることもあった。
3月15日は、それこそ雨のヤマハスタジアムに埼玉パナソニックワイルドナイツを迎えた。
22-17。前年度のレギュラーシーズン首位の強豪に今年度の初黒星をつけるに際し、北村は前半21分にトライを決めた。敵陣ゴール前で激しいラックの運用、少しボールを持ち出しながらのパスを重ね、最後に眼前の空洞を突いた。
第13節までに刻んだ9度のフィニッシュには、突破した味方を援護した形も含んでいる。
日本代表WTBのマロ・ツイタマ、同期入団でFLのヴェティ・トゥポウらパワーランナーの爆発に呼応し、駆け上がる。バトンを受け継ぎ、インゴールを割る。
「自分の足の速さを活かすのはそこしかないと藤井さんや矢富さんに言われていて、あの、サポートです。大体、『(仲間が)抜けるだろうな』みたいなことはわかる。特にマロがボールを持った時は『あ』と。…そんな観点で予測することが多いです。あと、多少、出遅れても、だいたいは追いつける。(スピードの際立つ)マロの時は『!』となりますが、FWやCTBの選手であれば、追いつくことができる」
先輩の後押しにも助けられる。自身と入れ替わるようにブルーレヴズで引退した矢富から、多くを学んでいる。最近では相手防御の出方、位置関係に応じ、さばきのテンポや動く方向を工夫すべしと教わった。
しみじみと語る。
「ラグビー観、変わりましたね。それまでは自分の前の小さなスペースばっかり探していたんですけど、全体を見るようになると色んなところにスペースがあるとわかりました」
自分をスカウトしてくれた西内勇人採用、さらに藤井からは、よく「謙虚に」とくぎを刺されるらしい。
「うまくいってくると、『通じるんじゃないか』というマインドになり、それがあの方たちにとっては『調子に乗っている』となる! 今シーズンは、謙虚を学んだ年でした」
元日本代表チームディレクターでもある藤井は、ざっくばらんな口調で「ポテンシャルはいまでも日本で一番。外国人よりええと思うよ。ゲームの中のコントロールがよくなれば、もっとよくなってくる」。若者は、成功するほど新たな課題を見つけている。