辛抱の80分。ブレイブルーパス開幕3連勝までの過程。
リーチ マイケルが、顔をゆがめて席を立つ。
1月5日、東京・味の素スタジアム。昨季王者の東芝ブレイブルーパス東京の主将として、国内リーグワン第3節の公式会見に臨んだ直後のことだ。
この午後はNO8として先発し、コベルコ神戸スティーラーズを32-26と僅差で制した。ラグビーで接戦をすれば身体がきしむ。着席と起立にもひと苦労だ。
テーブルが置かれた壇から、慎重に、降りる。すると最前列に座る記者に「きょう、神戸は何て言っていましたか?」と問う。
先方のデイブ・レニーヘッドコーチが「自分たちがファイトしようとしたところでミスを…。前年度のチャンピオンに対して自分たちのパフォーマンスを発揮できなければ結果は出せない」と、LOのブロディ・レタリック主将が「いいチームに勝つならチャンスは仕留めないといけない」とそれぞれ話していた旨を聞き、こう、声を絞るのだった。
「…きょうの勝利は、大きい」
この日は、昨季のリーグMVPでSOのリッチー・モウンガを足の怪我で欠いていた。それでも、前節白星のスティーラーズを相手に無敗を保てた。「きょうの勝利は…」に説得力を帯びる。
「自分たちのプラン通りにいかないことは多かったですが、メンタリティがよかった。神戸の強いフィジカリティに対して前に出て止めたり、我慢するところで我慢したり…。また、(試合中に)どうしたらよくなるのかの意思統一ができた」
リーチの言葉通り、主軸を欠くブレイブルーパスはずっと辛抱していた。
自陣ゴール前右まで押し込まれた前半7分頃には、その約2分前に先制点のお膳立てをしていたFLのシャノン・フリゼルがジャッカルを決める。
フリゼルは10-0となっていた17分にも、似た位置でミサイルのタックルを放つ。その後も続くスティーラーズの攻めへは、束となり対抗する。接点に身体を差し込んでリズムを鈍らせ、自軍から見て右端への展開でパスミスを誘う。
もしもその区画に球が通っていても、LOのワーナー・ディアンズがランコースを塞いでいた。ディアンズは以後もラインアウトでのスティール、チョークタックルでも光った。
リーチは「今年の練習ではディフェンスにあてる時間が多くなっている。その成果が出ている。僕的には、東芝イコールディフェンス」。防御担当のタイ・リーバ アシスタントコーチのもと、前に出る組織守備と個々のタックルスキルを磨いている。その成果を発揮したようだ。
20-12と8点リードの後半13分からは、およそ10分間で自陣22メートルエリアでのピンチを3度も脱した。いくつかの好機を逃した直後とあり、その価値は深かった。
ここではHOの原田衛、LOのアニセ・サムエラ、CTBのロブ・トンプソンといったリザーブ組が献身した。
スターターにおける殊勲者のひとり、ディアンズは述べる。
「できるだけ身体を張ってディフェンスすることにフォーカスした。去年よりもレッドゾーン——ピンチのところ——でうまく守れている感じはしますね」
その間、スティーラーズはフェーズごとに複数のパスを絡める回数がやや限定的だった。後衛にはWTBの松永貫汰ら好走者が控えていただけに、劣勢局面でキック、ランで奮闘のCTBのマイケル・リトルはこう悔やんだ。
「BKラインにいるタレントを早く使うことができれば、もっとラインブレイクができたのかもしれません。もっと自信を持ってボールを動かせれば結果は変わった。試合前の1週間を通し、『東芝にはここをこうすれば…』といったプレビューはしてきました。その、学んだ知識を(本番で)活かせなかった」
打ち合いの様相を呈した終盤戦は、ブレイブルーパスがWTBであるジョネ・ナイカブラが混とん状態からの加速で計2度のフィニッシュ。ラストワンプレーでは最初のトライをマークしたCTBのセタ・タマニバルがターンオーバーを決めた。最後まで粘り強かった。