国内 2024.12.31

現役ボクスの訓示。ワイルドナイツがスピアーズを2点差で下し開幕2連勝。

[ 向 風見也 ]
現役ボクスの訓示。ワイルドナイツがスピアーズを2点差で下し開幕2連勝。
MVP級のパフォーマンス、FLベン・ガンター(撮影:高塩隆)

 死力を尽くした証である。

 埼玉パナソニックワイルドナイツの坂手淳史主将は、12月28日、一時は雨が降った埼玉・熊谷ラグビー場の芝へへたり込んだ。

 リーグワン第2節にフル出場したところだった。対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイに何度も試練が課された試された末、26-24と辛勝していた。

 疲労困憊なのは必然だった。

 日本代表として2度のワールドカップに出た31歳は苦笑する。

「ちょっと疲れました。すごくタフでした。弱いところを見せないよう、次から頑張ります!」

 前半は20-3とリードできた。

 看板の堅守で光ったのは22分頃。狭い区画へ束になって走り込む攻めに数的優位を作られながら、端側から中央および逆側への展開には首尾よく圧をかけた。自陣22メートル線付近でエラーを誘った。

 かたやスピアーズは、ワイルドナイツが攻めに転じた際にペナルティを重ねてしまった。特に、タックラーが寝たまま接点に滞留するノットロールアウェイを頻発させた。衝突の際、ワイルドナイツの援護役が巧みにタックラーの動きを制御したような。

 スピアーズは他の動きでも取り締まられ、ハーフタイムまでに2枚のイエローカードをもらった。

 潮目が変わったのは後半5分以降だ。

 スピアーズは、それぞれ力や速さに特徴のあるゲームチェンジャーを5名同時に投下。特に右PRのオペティ・ヘルの推進力が効き、ワイルドナイツが笛を吹かれるようになった。

 23-10とリードを広げるまでの間はその間は何度も、何度も自陣ゴール前に侵入されており、坂手は「(映像を)見てみないとわからないですけど、後半の20分くらいまでは接点で下げられていたイメージがあります。そうなると、ペナルティをしやすい状況になってしまう」。23、31分には、寄り切りのような形でトライラインを割られた。

 23-24。残り9分で1点差を追うこととなった。

 タイトなバトルにあって、ロビー・ディーンズ ヘッドコーチは交替カードを4枚しか切らなかった。

「プレッシャー下で、すでにフィールド上に変化が存在していた中、さらに変化を加えるのはよくないと感じたのです。一貫性のあるコンビネーションで臨みました」

 この意図を振り返る流れで、「そこまで速い試合ではなかった。選手にも息をつく時間があったのでは」とも述懐する。

 軌道修正のための「時間」があったのは34分頃だ。

 ビデオ判定でスピアーズに3枚目のイエローカード(一時退場処分)が出るまでの間、ワイルドナイツのインサイドCTBで現役南アフリカ代表のダミアン・デアレンデが仲間に訓示した。

 坂手によると、「自分たちのプレーに対して付加価値を与えてくれるようなコミュニケーションがあった」。アウトサイドCTBとして殊勲の働きだった日本代表のディラン・ライリーは、日本人選手向けに訳したデアレンデの発言内容を明かす。

「自分たちのコントロールできることにフォーカスしよう。そう話してくれたことは、チームにとっても自分にとってもターニングポイントになりました。やるべきことを見つめ直せたので」

 直後のペナルティゴールで26-24と再逆転したワイルドナイツは、改めて、看板の防御を修繕した。

 終了のホーンが鳴る前後には、15フェーズを耐えた。

 最後は球が後方にそれ、ライリーと左PRのクレイグ・ミラーが反応してラッシュ。WTBの長田智希も交え、カウンターラックを決める。この日14個目のペナルティキックを獲得する。ノーサイド。坂手は述懐する。

「最後の10分は、ほとんどのプレーで相手を向こう側に倒していたと思います。(一時押し込まれた場面は)修正できる部分ではある」

 前年度まで長らく貴重なリザーブ役だった堀江翔太は、昨季限りで引退した。前年度のレギュラーシーズンで首位の青いジャージィは、生態系の変化を受け入れたうえで勝ち筋を再構築している。ワールドカップ経験者で左PRの稲垣啓太はこうだ。

「堀江さんの代わりになろうとしなくてもいい。今すぐ丸ごと真似をするのは難しいし、するべきではないと思っています。それぞれがやるべきことのクオリティを高めていけば、何かトラブルがあっても自ずと『どこの責任? どのエリア? どうする?』がすぐにわかると思うんです。そこまで精度を上げることが、このチームに必要です」

 今回のMVP級戦士はベン・ガンター。前半4分頃に自陣中盤でビッグタックルを放ったのを皮切りに、要所で好守を披露した。ライリーの一撃でゲームを終わらせたラストシーンでも、この人のクラッシュが歓声を呼ぶ瞬間があった。

「ナンバーワンの6番(ブラインドサイドFL)を目指します。チームが一緒になってディフェンスに特化すれば勝てると示したかった」

 戦い終えた直後の気持ちを聞かれた当事者は、「とっても、痛く、疲れました」。主将と似た言葉を絞り出すのだった。

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