コラム 2024.06.26

【コラム】東大ラグビー部に学ぶ

[ 渡邊 隆 ]
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【コラム】東大ラグビー部に学ぶ
スタッフとして東大ラグビー部を支える佐々木凜さん。法学部に学ぶ4年生(撮影:渡邊隆)

 白い朝靄がまだ少し漂う、駒場の森につつまれた美しい東大ラグビーグラウンドを訪ねた。

 朝6時30分、スタッフと選手たちが続々と集まってきて、それぞれの準備、アップが始まった。キャプテンの挨拶に続き、その日の練習リーダーが、今日のフォーカスポイントを告げて、いくつかのグループでスモールトークを交わした後、一斉にグラウンドに散った。

 太陽はまだ低く、朝の清々しい空気の中で、ベンチに座りパスを繋ぐコンビネーションを見ていたら、僕も久しぶりにラグビーがしたくなった。
 こんなに気持ちの良い環境でラグビーができたなら幸せだと思った。

 僕たちの時代は、じりじりと太陽が照り返す灼熱の土のグラウンドで、ヘッドスピードと呼ばれたインターバル練習を、ボールを見失ってしまうほどの土煙の中で走り込むことが日常であった。

 東大の練習は基本、朝7時スタートだ。週に1日だけ夜7時スタートの日がある。どちらもラグビーの練習と勉学との両立を考えたスケジューリングだ。

 大学構内にあるグラウンドで、朝、涼しい時に濃密な練習をし、午前の授業がある選手は順次シャワーを浴びて、授業に行く。
 授業後に個人トレーニングやウエート、勉学、何を選択するかは自分自身だ。校門から井の頭線『駒場東大前駅』直結のため、渋谷まで3分という立地でもある。

 他方、都内の大学は運動部のグラウンドが遠く離れている所が多く、学内にラグビー専用グラウンドやシャワー室などが備わっているなど、夢のような環境だ(東大では3年時から授業は本郷キャンパスに移る)。

 イギリスのオックスフォード大やケンブリッジ大も似たような環境だった。ロンドンから離れた郊外で雑音を遠ざけ、学生としての本文である勉学やスポーツなど何かに打ち込む場として、学生の街が独立していた。周りに飲み屋街や遊ぶ施設などはほとんどなかった。
 エディンバラ大などは、学内を流れる美しい小川で、夕陽を浴びてボートの練習がおこなわれていた。

 僕は小学5年の時に、真行寺を本部とするボーイスカウトに入団した。その住職、佐々木道昇隊長と弟の宏文副長に、人として優しく、逞しく育てられた。この素晴らしい指導者の大きな愛につつまれて、キャンプや登山など思いっきり楽しんだ。
 あれから50年以上が経っても、真行寺は今でも僕たちの心の故郷である。道昇隊長の次男、篤行君が小学生の時、僕たちが出ていた伝説の早明戦をテレビで見ていた。

 彼の幼少期はスキーに邁進し、福島県強化選手に選ばれながら、福島高校ではラグビーを選択した。そして3年後、早稲田大学ラグビー部に入部した。
 篤行君の長女凛ちゃんも、幼少期からタグラグビーを続け、福島高校でも男子と一緒にグラウンドでボールを追い、ラグビーを3年の秋まで続けた。

 通常、3年生は受験を理由に夏の大会を最後に抜けていくのを、凛ちゃんが説得して、秋の花園予選まで全員が残り、戦った。そして、凛ちゃんは現役で東大法学部に合格し、東大ラグビー部に入部することになる。
 この年代は福高創立以来、現役東大合格者6名という記録も打ち立て、ラグビーの同期も皆、第一志望校に現役で合格した。文武両道を全うした誇り高き年代である。

 現在の凛ちゃんはB級レフリーの資格も2年時に取得し、スタッフ長兼戦術分析、メディカルトレーナーとして、グラウンドの中を選手と一緒に走り回り、ルールの正確な解釈や、戦術、各選手の体のケアなど、それぞれの選手に声掛けをしながら、時には笛を吹き、高い意識でチームを支えている。

 関東対抗戦Bに所属する東大が目標として掲げる入替戦出場、その「Take Overに必要だと思うこと」という項目に、凛ちゃんのプロフィール欄には一言だけ「根性」と書いてある。今どきの女子大生が、根性の意味を理解し、使用していること自体、彼女の計り知れない人間としての幅、不思議さを感じる。

 5月になれば、もう東京は異常に暑い日が続く。午後2時練習開始だと、フィジカルを鍛えるトレーニングの前に、熱風の中でどれだけ耐えて走れるかという、我慢くらべの様相を呈する。
 冬のスポーツであるラグビーの、【夏の練習は早朝】、これは理に適っている。

 東大のMISSION=果たすべき使命は、「泥臭い努力をしているか。仲間を奮い立たせているか。自分の弱さと向き合えているか。自分より強い相手に立ち向かえているか」だ。そこで、「ラグビー部リレー日記」は特筆すべき取り組みである。

 スタッフも含めた全部員の間で、本音を語り合う対話の時間は、日々の練習に追われ、どのチームも持てないのが現実だ。僕たちも練習後の部室で、ボール磨きをしながら同期と話す時間が、唯一仲間を知る貴重な安らぎのひと時になっていた。

 今ではゴムのボールでその時間さえもない。本物の強い集団を作るにはまず相互理解が必須であり、チームが固い絆で結ばれる、ラグビーという特殊なスポーツにおいては尚更である。全員が順番で、自分の主張や本音をグループアプリなどで伝え合うことは、仲間を深く知る大切なツールになるはずだ。

「今日の練習リーダー」のようにチームのキャプテンはいても、日替わりで経験するリーダーはやがて社会に出てさまざまな世界でリーダーシップを発揮する必要がある人材にとって、重要なトレーニングである。

 東大ラグビー部員六十数名のうち、ラグビー未経験者が半数近くいるという。勧誘を受け、ラグビー部の練習を見て、チームの姿勢や雰囲気に魅かれ、そこに自分を高める可能性を見出し『入部』という決断に至る。【ラグビーの魅力をどう伝えるか】これからのラグビー界にとっても重要な課題である。

 凛ちゃんの弟、篤馬君も昨年、早大ラグビー部の新人練を無事乗り越え、入部を果たした。二人は同居していて、凛ちゃんは母親のように、篤馬君を食事とメディカル面でもバックアップしている。
 二人がこれから、どのような人生を歩むのか、とても楽しみである。

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