国内 2024.05.21

決勝進出への「耐え」。ブレイブルーパスがサンゴリアスの奇襲を退けるまで。

[ 向 風見也 ]
決勝進出への「耐え」。ブレイブルーパスがサンゴリアスの奇襲を退けるまで。
「耐え」の時間を堂々と乗り越え、勝利を手にした(撮影:松本かおり)



 これぞノックアウトステージだ。

 東京サントリーサンゴリアスは5月19日、東京・秩父宮ラグビー場でリーグワン1部のプレーオフ準決勝に臨んだ。レギュラーシーズンの直接対決で2連敗した東芝ブレイブルーパス東京へ、それまでと異なる戦法で挑んだ。

 キックオフ早々に自陣から深めのパスを用い、FBの松島幸太朗、左PRの森川由紀乙を滑らかに突破させた。敵陣ゴール前まで進んだ。正面衝突の機会を最少化することで、ブレイブルーパスの持ち味である接点での圧力をいなしにかかったか。

 その後、中盤へ戻されてからは、高い弾道のキックを多用した。落下地点にはサンゴリアスの誇る両WTBが駆け込み、確保。特に、怪我から復帰したチェスリン・コルビがばねを活かした。

 捕球位置を起点としたビッグゲインは複数あった。何より、ブレイブルーパス自慢の攻めの爆発力が発揮されづらくなった。

 サンゴリアスでSHを張る齋藤直人が、意図を語る。

「(ブレイブルーパスの後衛にいることの多い)脅威になるランナーに長いボール(長距離のキック)を預けて走られるよりは、自陣からでも(至近距離で捕球合戦に持ち込める)コンテストボールを上げる。そうすることで(キックをブレイブルーパスに)キャッチされても(着地地点で)プレッシャーをかけて、(サンゴリアスが横一列になって)ディフェンスを始められる。…とにかく、(ブレイブルーパスに)クリーンにカウンターをさせることだけは、減らす。その意図はありました」

 ブレイブルーパスの副将でHOの原田衛は、関西出身者らしいイントネーションで「サントリー、いいチームやなって。ハイパントを上げるにしても、徹底されていた」。旧トップリーグ時代の優勝回数は互いに5回という、伝統的な好敵手の凄みを讃える。

 一方で、落ち着いてもいた。

「焦らずいこう、ここ(序盤)は『耐え』やから…みたいな。無理をしてしまうと、かえってモメンタム(勢い)が向こうに行ってしまうので」

 24分までに10点を先行されるも、それまでの間に自陣22メートル線まで入られながら向こうのエラー、反則を誘うこと4回。サンゴリアスが工夫を凝らすなかでも、走者を仕留めて球出しを鈍らせる生来の守りを要所で披露できた。

 ブレイブルーパスの「耐え」が効く流れは、得点機を逃して7―10で迎えたハーフタイム以降も引き継がれた。

 珍しい類の「耐え」があったのは、ブレイブルーパスが14―10とリードしていた後半8分頃のことだ。

 キックをきっかけにチャンスを作ったサンゴリアスがフェーズを重ね、齋藤がグラウンディング。トライで14―15と再逆転か。

 否。ここでブレイブルーパスの給水係だった中尾隼太が、声をあげたようだ。その過程にあった肉弾戦で、サンゴリアスの援護役に守備妨害があったのではとの見立てだ。

 滑川剛人レフリーは、テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)と呼ばれるビデオ判定を採った。

 どうしたか。サンゴリアスのスコアをキャンセルした。両軍主将に説明した。

 この瞬間を、サンゴリアス側でHOの堀越康介は「判定に対してどうのこうのと言うつもりは全くないです」。ブレイブルーパス側でNO8のリーチ マイケルはこうだ。

「ウォーターの中尾選手から『ジャージィを掴んでいるんじゃないか』という話があり、それを滑川レフリーに伝えに行ったら『すでに上(TMOの担当者)からコミュニケーションがあるよ』と。…あのトライがなくなって、本当によかったなと思います」

 時間を止めてプレーを見返す「TMO」は、ブレイブルーパスの得点シーンでも扱われた。

 混とん状態からの継続の末、FLのシャノン・フリゼルがインゴールにおいて片手で球を置いた折だ。手離れが早かったのではとリチェックがなされた。

 結局、トライが認められ、ブレイブルーパスが21―13と点差をつけた。フリゼル本人は笑った。

「爪を切ったばかりですが、絶対にトライをしたと自信満々でした。…ただ、コーチからは『次からは絶対(両手で)ダイブするように』と言われました」

 フリゼルの相方のFLだったのは佐々木剛。さかのぼって後半2分にトライで勝ち越したうえ、防御でも光った。

「ボールが見えたらチャレンジ」と、この日を通じて2度のジャッカルを成功させた。

 さらに28—13としていた29分頃には、「自分を投げうってでも」とトライラインを背にしてカバーリング。顔役であるSOのリッチー・モウンガとともに、ややよろけたような相手を右タッチラインの外へ出した。

 何と、5月上旬の時点で6月に向けた日本代表への招集依頼が届いていないという伏兵が、最後に28—20と勝つまでの立役者となった。

 トッド・ブラックアダーヘッドコーチの信頼は厚い。

「ひとつひとつのプレーが正確。いいディフェンダーで、ブレイクダウン(ボール争奪局面)でも仕事ができる。爆発力のあるプレーもでき、とにかく速い」

 トーナメント戦ならではのサンゴリアスの奇襲に有形、無形の力を使って「耐え」たことで、’09年度以来の日本一に王手をかけたブレイブルーパス。26日、東京・国立競技場のファイナルでぶつかるのは、埼玉パナソニックワイルドナイツである。堅守で鳴らし、一昨季まで国内2連覇という名門だ。

 ワイルドナイツは18日、秩父宮でのセミファイナルで20―17と辛勝している。対する横浜キヤノンイーグルスの、複層的なアタックにやや手こずっていた。

 となれば、シーズン中に何度も猛攻を繰り出してきたブレイブルーパスには追い風が吹くか。その仮説に対し、殊勲の佐々木は目を細めて応じる。

「そうですね。…でも、ああいう(苦しい)試合をした次は締まったチームになってくると思います。油断なく、チャレンジしていけたらと思います」

 勝負とは、人間とは何かを現実的に捉えながら、かつ頂点に立つまで「耐え」る。

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