海外 2024.05.21

【パリ五輪】聖火リレーにラグビーマン続々登場

[ 福本美由紀 ]
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【パリ五輪】聖火リレーにラグビーマン続々登場
スタッド・トゥルーザンのホームグラウンド、スタッド・エルネスト・ワロンで大声援を受けたアントワンヌ・デュポン。TOP14の「X」より



 5月8日、聖火がマルセイユに到着した。

 南フランスの港町のマルセイユは、紀元前600年にギリシャのフォカイア人が築いた植民都市で、ギリシャの船乗りや商人で栄えたフランス最古の都市だ。

 その歴史を辿るように、聖火も11日間かけて地中海を渡ってきた。聖火を運んできたのはフランス最古の3本マストの帆船『ベレム号』で、1896年に第1回近代オリンピックが開催された年に進水した船だ。ここにも歴史を感じさせる。

 ベレム号が南仏の光を浴びながら、地元の船1024隻を伴って港に近づいてくる様子は、まるで映画の1シーンのようだった。
 花火が打ち上げられ、フランス航空宇宙軍のアクロバットチーム「パトルイユ・ド・フランス」の航空機8機が赤・白・青の煙をたなびかせながらベレム号の背後からあらわれ、空中ショーを披露。五輪を空に描いて去っていった。
 エマニュエル・マクロン大統領が「かつてないほど壮大なオリンピックに」と言っていた。その言葉通りの演出である。

 その翌日から聖火リレーが始まり9日目、聖火はトゥールーズに到着した。
 ここに至るまでにも、トゥーロンではラグビー・クラブ・トゥロネのベルナール・ルメートル会長が、モンペリエでは、2年前の女子ワールドカップで引退した女子ラグビーのレジェンドのサフィ・エヌディエが、またペルピニャンでは東京オリンピックで銀メダルを獲得した女子7人制チームのキャプテンだったファニー・オルタがランナーとして参加していた。

 ナルボンヌでは、ナルボンヌ、そしてスタッド・フランセのフランカーだったジェラール・ベルトランも参加した。
 現在はワイナリーを経営している。彼のワインを飲んだ人は、日本でも少なくないのではないか。

 トゥールーズではさらにラグビー色が強くなる。
 車いすラグビーフランス代表キャプテンのジョナタン・イヴェルナが2番手のランナーだった。その後は競泳選手、ラップグループ、トゥールーズ・フットボール・クラブ所属のオリンピック候補GKらが続く。

 この日のゴールになっているスタッド・エルネスト・ワロン、ラグビーのスタッド・トゥルーザンのホームグラウンドが近づくと、元フランス代表FBマキシム・メダールの手に聖火が渡された。
 そしてメダールを待っていたのは、ダヴィッド・ベルティーだ。ベルティーは1990年代のスタッド・トゥルーザンでWTBとして活躍、フランス代表にも選ばれたが、多発性硬化症のためラグビーを断念した。現在は車いすラグビーをしている。

 ベルティーから元フランス代表WTBヴァンサン・クレールに聖火が渡る。クレールから、フランス初の癌を患った女性のためのラグビークラブの創始者を経て、元フランス代表BKエミール・ンタマックに渡る。

 そしてスタジアムの入り口でエミールを待っているのは息子のロマンだ。父から息子へ聖火が渡る。
「オリンピックは遠くから見るものだったのに、小さな役割だけど参加できるなんて、しかも親子で聖火の受け渡しができるなんて最高だよ!」とセレモニーの後のインタビューで感無量の父。
「うん、すごいね。感動したよ。しかもホームスタジアムっていうのがさらに良かった」と息子は続けた。

 息子が聖火を掲げてスタジアム内に入ると、平日にも関わらず集まった1万を超える観客に、拍手と歓声で迎えられた。
 当初の予定では、彼がスタジアム内に設置された聖火台に点火する役割だったのだが、3日前に急遽アントワンヌ・デュポンの参加が発表され、点火役もデュポンに委ねられた。

 ンタマックからデュポンに聖火がパスされる。デュポンがゆっくり歩きながら聖火台へ近づく。台にたどり着くとカウントダウンが始まる。「…5、4、3、2、1」という声に合わせてトーチをゆっくりおろすと、聖火台が燃え上がった。

「感動の瞬間だった。いつもはボールを持って15人でグラウンドに入るから、トーチを持って1人で入るのは変な感じだった。でも数か月後にこの国で開催されるオリンピックへの人々の熱気や、みんなが僕たちアスリートを応援してくれているのが感じられた。この聖火でオリンピックがスタートした」と感激を噛み締めながらも、自国開催のオリンピックがそこまで近づいていることを実感したに違いない。

 トゥールーズでのラグビーの、そしてスタッド・トゥルーザンの占める位置づけの重要さを改めて認識させられた1日であった。

 翌日は、オーシュで7人制フランス代表キャプテンのポーラン・リヴァと、現在膝靱帯の手術からリハビリ中のフランス代表、そしてスタッド・トゥルーザンFLのアントニー・ジュロンが聖火を掲げて走った。

 さらにその次の日のオート・ピレネー県ではパリオリンピック招致の立役者であるベルナール・ラパセの地元のルイという村を通過した。
 開会式を見ることを楽しみにしながらも昨年他界したラパセの家族がランナーとして参加し、彼の功績へのオマージュを捧げた。

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