国内 2024.05.13

【連載】プロクラブのすすめ⑯ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] このままでいいのか、リーグワン。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ⑯ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] このままでいいのか、リーグワン。

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
 16回目となる今回は、「フェーズ1」と定める3季目の最終盤を迎える、リーグワンの現状について語ってもらった。(取材日4月25日)

◆過去の連載記事はこちら

――今回のテーマは山谷社長の持ち込み企画となりました。3シーズンを過ごした中で、話しておきたいことがあると。

 リーグワンとなってから3シーズン目もほぼ終わりを迎える中で、メディアやファンの皆さんはリーグの現状をどうお感じになっているのかなと。僕はあんまり将来が見えない、というのが正直な印象なんです。それは『お先真っ暗』だとか、『衰退する』という意味ではなくて。僕がブルーレヴズに来た3年前に抱いた『これからラグビーが変わるぞ』という期待感と比べると、かなり厳しいと感じています。競技人口が減っている問題も踏まえれば、もっと危機感を持たなければいけないと思っているんです。

――進化の速度が遅い、ということでしょうか。

 おそらくですが、今シーズンが終わった後に語られるのは、平均観客動員数が1万を超えたとか、総観客数が100万を超えたとか、『観客数』のことだけだと思います。もちろん観客動員が伸びることはすごく大事なことですが、ここまで一切語られていないのが『チケットの売り上げ』なんです。そこは観客数とセットで見ないといけない。

 招待や無料チケットが悪いと言っているわけではありません。『売上』であったり、『利益』という概念がまだまだリーグの中に浸透していないのが現状です。
 それは企業スポーツからの脱却、つまりクラブの独立法人化が進んでいないからです。企業クラブとプロ(独立法人)クラブの混合が最善という意見もありますが、僕はまったくそうは思いません。

 われわれもヤマハ発動機からそれなりの支援を得ているので、親会社に頼るということが良くないということではないです。
 ただ、法人化しないと売り上げを拡大したり、利益を生み出そうという発想は生まれない。企業クラブは基本的に年間の予算を使い切ることを毎年繰り返します。バランスシートがないので、お金を貯めて将来大きいことをやろうということができないし、リスクを取ってチャレンジするということもできない。『売上』や『利益』という指標が出てこないのは当然なわけです。

 ラグビーでは、独立法人に統一することが時期早尚という意見も結構耳にするのですが、僕としてはむしろ遅れていることでチャンスを逃していると感じます。
 他競技のチケットの売り上げを見ればそれは明らか。Jリーグでは浦和レッズが15億円ほどで、Bリーグでも琉球ゴールデンキングスが10億円を超えている。BリーグのチームがJリーグに迫る勢いなんです。ブルーレヴズは今シーズンでやっと1億円を超えたレベル(1億2700万円)。かなりの差があります。

 売り上げをどんどん高めていこうという発想は法人化しないと生じません。観客数だけを見て、売り上げは二の次となってくると、完全に手遅れになると思うんです。

――以前にも話題に上がりましたが、法人化したクラブが浦安D-Rocks以降現れていません。

 クラブを法人化するのはなかなか難しいと企業クラブの皆さんは言うのですが、ビジネスをするのであれば会社を作るのはごく当たり前のことですよね。Jリーグ、Bリーグも過去にはそうした壁を乗り越えてやってきたわけですから(法人化しなければリーグに加盟できないライセンスを作った)。これは一丁目一番地だと思います。各クラブが予算を使い切る『コストセンター』から、売り上げや収益の目標を掲げて経営する『プロフィットセンター』にならないとラグビーの市場は拡大しません。

 独立法人のクラブと企業スポーツのクラブとでは基本的な考え方がまったく違っていて、本来はなかなか相入れないものなんです。(Bリーグ以前の混在していた日本リーグ時代の)バスケの時もそうでしたが、話し合っていても『こういう方向に向かっていきましょう』という発展的な議論はできません。同じベクトルを向かないんですよね。

 余談ですが、過去を見ればクラブが休部したり、廃部するのはほとんどが企業スポーツです。法人化していれば、いまの株主ではチームを支えきれなくなったときに、必ずそのクラブを評価して新たな株主になってくれる会社が見つかる。
 最近でも、Bリーグでは青森のチームが株主を変えたことで存続の危機を脱しました。法人化すればクラブがなくなることへのリスクヘッジにもなる。他のチームからすると、余計なことを言ってくれるなという話かもしれませんが、そこを本気でやらないと先は見えてこないなと痛感しています。

――法人化をライセンスに盛り込むような話は、来季から「フェーズ2」となりますが、一向に聞こえてきません。

 リーグとしては現時点では想定していないと思います。試合数を増やしたり、各クラブが優先的に利用できるホストスタジアムを確保する議論はなかなか進みません。企業スポーツのままでは、そうしたことの優先順位が高まらないんです。別の会場を借りればいいじゃないかと。ホストエリアで試合会場が押さえられなくても、地方で開催した方がラグビーの普及になると考え始めるわけです。

 対応策としてはもちろん正しくて、地方で開催することが悪いわけではありません。ですが、それは本来であればその地域にクラブができるべきであって、一つのクラブは一つの拠点、一つのスタジアムを構え、そこで徹底的にマーケティングをして、地域に根ざしていく。そのようなクラブが日本全国に広がり、その集合体がリーグワンというのが理想的な姿ですよね。

 なので、いまはあるべき姿からはかけ離れていますし、経営の観点から見ると異なるスタジアムでホストゲームをやることで複雑性が高まり効率性が落ちるので、良いこととは言えません。
 われわれでさえ静岡県内の3会場でホストゲームをしていますが、やはりスタジアムを変えるたびに、運営準備やマーケティング、販売促進とそれぞれのエリアで違う労力がかかってしまって効率は良くないんです。それでも静岡県内への認知拡大のためにいまはチャレンジしていますが。

 ですので本来であれば、リーグが(ホストスタジアムで年間何試合しなければならない等の)ライセンスを作って、ライセンスという”手形”によってクラブが自治体ともっと向き合えるようにしてほしい、という要望が各クラブから出てくるはずです。
 そうした議論が現状まったく出てこないことに虚しさを感じますし、リーグが掲げた『ビジョン』に向かっていく中で、いまあるべき姿でいられているのかと問われれば、まだまだだと思います。

――リーグワンの掲げるビジョンは「あなたの街から世界最高を」でしたね。

 あらためてリーグワンのビジョンを確認したのですが、とても良いことが書かれています。僕なりに紐解けば、一つひとつのクラブがそれぞれの地域にしっかり根づいてラグビーをする、地域のシンボルになるということを表現していると思うんです。

 世界最高というのは、やはり規模を拡大していくこと。ラグビーの強さもそうですが、売り上げや観客動員を拡大していくことなのだろうと。何度も言いますが、それは法人化しないとドライブがかからない。過渡期であることは事実ですが、そのビジョンに対して妥協せずにチャレンジするべきだと思います。

 各クラブの法人化が自然発生的に進めば一番理想的ですが、各クラブの意見を全部聞いていたらライセンスは作れません。リーダーであるリーグがどうあるべきかを示し、しっかりクラブを説得する、理解を求める、粘り強くコミュニケーションを取るということをしていかないと。

――D1の試合数も来季から2試合(16試合→18試合)増えはしますが、依然としてホスト&ビジターで総当たり戦のできない歪なフォーマットが続きますね。

 オフシーズンが7か月もあるプロスポーツはやはりあるべき姿ではないと思いますし、そのままでは先ほど言ったようなリーグのビジョンに向かっていくこともできません。

 ただ、リーグとJRFUとで議論の場は持たれています。リーグが掲げるビジョンを目指す上では、できることなら6月や10月、11月など観戦環境の良い時期に試合をやりたいですし、試合数が増えたりクロスボーダーが発展していけば、やはり日本代表の活動期間とリーグ戦が重なることは避けられない。クラブが選手を派遣する上でのクラブに対する補償や選手のウェルフェアなども含めた議論がようやくおこなわれるようになりました。

 というのも、トップリーグ時代は各チームが自ら興行やビジネスをしていなかったわけなので、日本代表の活動期間がいくら長くても、リーグの試合が減らされても、誰も文句を言わなかったと思うんです。

 これまでは代表最優先でしたが、これからはリーグとしてやるべきことをやらないといけない。日本代表は活躍してよりラグビーのプレゼンスを高め、各クラブは地域に根ざしてラグビーというコンテンツをどんどん浸透させていく。リーグと代表は本来、競技を発展させていく上での両輪なんです。

 クラブが代表選手を送り出すことで、戦力ダウンや怪我のリスク、想定していたお客さんが来なくなるなどデメリットは多いですが、もちろんメリットもあります。クラブのブランド力が上がったり、露出の機会が増えたり、グッズも売れる。クラブへの金銭的な補償を充実させたり、柔軟な移籍ができる制度に変えてゆけばデメリットも減ってくるはずです。

 日本代表側も向き合っていかないといけません。そうした補償ができるくらい日本代表のビジネスを拡大して、得たものをリーグやクラブに還元していく発想が必要になります。

――せめてもう何チームか法人化してくれれば、議論も先に進むと思うのですが…。

 リーグの中ではいろいろ意見の多い奴だと思われているかもしれませんが(笑)、自分が会社を背負っている以上は、会社を発展させること、売り上げを拡大させることは株主と約束していることなので、そのために伝え続けるしかないと思っています。

 クラブのマネジメントに関わっている僕ら50代の世代は、自分たちがいなくなった後のことも考えていかないといけない責任世代。この先どうしていくのかを議論してあげないと、後の人たちが本当に苦労するし、ラグビーが発展するチャンスを逃してしまう。

 ラグビーはバスケを追い越して、サッカーや野球に近づけるくらいのコンテンツだと、僕は本当に信じているんです。信じていなければ、この仕事をやっていません。だから、これからも発信を続けていきたいと思います。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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