海外 2024.05.08

フランスは『20分レッドカード』にNON

[ 福本美由紀 ]
【キーワード】,
フランスは『20分レッドカード』にNON
危惧すべきはエンターテイメント性の低下ではなく、重大な事故。(Getty Images)



 5月9日に行われるワールドラグビー理事会に向けて、フランス協会は『20分レッドカード』に「NON」の意向を示した。

 早い時期に出されたレッドカードによって試合のバランスが崩れることを避け、エンターテイメント性を維持するため、ファウルプレーをした選手は退場となるが、20分後にチームの他の選手を交代で投入することができるようにするルール改正案だが、すでに日本のリーグワンやスーパーラグビー・パシフィックで試験的に導入されている。

「選手組合、コーチ組合、レフリーの意見を聞いたが、フランスのポジションは、全員一致でこのルール改正に反対だ」と語るのはフランス協会副会長のジャン=マルク・レルメだ。

 フランスはこの評議会のメンバーではないので投票権はないが、書面で立ち位置を示した。

「レッドカードによってエンターテイメント性が壊されてしまうという論拠が十分に示されていない。統計によると、2021年以降、ティア1の国同士で行われた試合が161あり、31枚のレッドカードが出され、カードを出された59パーセントの国が負けている。レッドカードの結果に及ぼす影響は必ずしも決定的ではない」とレルメ副会長は続ける。

 SANZARはこの新ルールのトライアルの結果がポジティブだと伝えていることに対しては、「そのデータを見せてほしいと依頼しているが、いまだに見せてもらっていない」と訴える。

 反対派にとってひっかかるのは、レッドカードという最高の罰の効果を弱めてしまうこと。また、チームではなく『個』を罰することだ。

「賛成派は、カードを受けた選手個人への制裁を強化しようとしている。しかし、歴史を振り返ると、このルールは選手の安全を守るためのもの。レッドカードの抑止効果のおかげで、スピアタックルや拳で相手を殴るような危険なプレーが見られなくなった。また、レッドカードによる退場がチームの結果に影響を与えるからこそ、選手は行動に気をつける。『20分レッドカード』は、選手や子どもたち、そしてラグビースクールの指導者への良いメッセージにならない」とレルメ副会長は反対の理由を説く。

 フランス男子15人制代表のファビアン・ガルチエ ヘッドコーチ(以下、HC)も反対の姿勢を示している。
ガルチエHCは3月初旬に開かれたワールドラグビーの「シェイプ・オブ・ザ・ゲーム」(国際大会の代表者、プロクラブの代表者、コーチ、国際ラグビー選手会および国際ラグビーマッチ・オフィシャルの代表者、協会の代表者、コミュニティ・ゲーム、競技規則、プレーヤーウェルフェア、そしてファン・エンゲージメントの専門家が参加するマルチステークホルダー・フォーラム)にも出席していた。

「HC代表として、グレガー・タウンゼンド(スコットランド)、フェリペ・コンテポミ(元アルゼンチン)、ジャック・ニーナバー(元南アフリカ)、そして私の4人。選手代表として、コンラッド・スミス(元オールブラックス)やマチュー・ジウディチェリ(フランス選手組合ゼネラルディレクター)ら。レフリー代表はベン・オキーフなどが出席し、ワールドラグビー副会長のジョン・ジェフリーも参加していた。賛成派の南と反対派の北に完全に分かれた。私は『20分レッドカード』には反対で、現行のレッドカードを維持するよう説得した」とフォーラムでの様子を語る。

「(危険なプレーを抑止するための)脅威は必要であり、その脅威は強いものではなくてはならないというのが私の意見だ。妥協的な脅威の方向に進むのは良いことではない。また、この数年間取り組んできたこととも矛盾する。しかも取り組みの効果も見えてきているのに。このスポーツの危険度や、脳震盪や大ケガの件数に与えるレッドカードの影響は統計データに表れている」とガルチエHCは訴える。

「また、この議論をするときに、トップレベルのラグビー界だけではなく、すべてのラグビーに関わる人、特に子どもたちにどのように受け取られるかも考えなくてはならない」と教育的側面からも主張する。

「さらに『20分レッドカード』はゲームの読みを複雑にするだろう」と付け加えた。

「今はバンカーというシステムがあり、グラウンドの熱気やストレスから離れたところで、冷静に時間をとってイエローのままなのか、レッドになるのか検証できる。これで十分だ。常に完璧なジャッジなどあり得ない。我々には明確な指針がある。タックルするために低くなることを身につけること。またラックは横から入らないということ。おかげでスキルや技術の向上させることができるじゃないか。疲労やストレスが増してくる時間帯でも自制できるよう練習を続けるしかない」

 近年のルール改正の多くは南半球からの提案であり、ほとんどがゲームのスピード感をアップさせるためだと『レキップ』は伝える。スーパーラグビーを放映している『スカイ』はこれまでも様々な提案をしてきた、今回の『20分レッドカード』もNZとオーストラリアから出されたものだ。

 これに対して『レキップ』はトップ14の放送局である『カナル・プリュス』のコメントをとっている。
「ルールについて介入するのは私たちの役割ではない」とした上で、「選手の保護が最優先事項だと思う。そういう意味ではレッドカードの軟弱化はポジティブなメッセージにはならないだろう。エンターテイメント性の向上というが、ルール改正したからといって保証されるものではなく、これまでの原則を覆すだけの十分な根拠がない。これは教育の問題でもある。もしレッドカードの効果を小さくすると、その分野の練習をしなくなっていくのでは」と『カナル・プリュス』のラグビー班のチーフであるエリック・ベイルは懸念を表す。

「今季のトップ14でレッドカードが出た試合のうち半分はカードを出されたチームが勝っている。我々は、14人になったチームの団結力や、残った選手が持ちうる力を振り絞って奮闘しているところを解説で伝える。それもこのスポーツの素晴らしいところだ。今日、ラグビーで危惧しなくてはならないのは、エンターテイメント性の低下ではなく、重大な事故だ」


PICK UP