いまこそチャレンジ。矢富勇毅[静岡ブルーレヴズ/SH]【ラグビーマガジン3月号・再録】
静岡ブルーレヴズは5月2日、矢富勇毅が今季限りで現役を引退すると発表した。
1月25日発売のラグビーマガジン3月号では、今季のリーグワンの序盤戦で光った選手としてインタビュー記事を掲載。ここに再録する(掲載内容はすべて当時のまま)。
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「年齢を言い訳にしたくない」
2月16日で39歳になる静岡ブルーレヴズの矢富勇毅は、大の負けず嫌いだ。4節から2戦連続で先発する同じSHの岡﨑航大とは14歳差。粋のいい若者が台頭しても、闘争心は失わない。
「みんなと同じ舞台で戦いたいと思っています。年がいってるから練習を削るとか、そういうことはしたくない」
そのための影の努力はしてきたつもりだ。「言うのは恥ずかしい」と笑いながら、ストレッチやフィジオのマッサージといったケアを毎日2~3時間かけて入念におこなっていると明かす。
加入18年目ともなれば、その日の体のコンディションで重点的にケアする部位やその強度を調整できるという。
円熟味を増す矢富だが、今シーズンは改めて、「チャレンジしないといけない年」と定めた。
「首脳陣が変わったタイミングで、自分自身ももう一度考え方含めて新しくできる機会だと思った」
2年前からコーチも兼任していたが、コーチ体制の刷新で選手一本に。「コーチもやっているから」と、言い訳できる環境を捨てた。
まずはプレシーズンでの取り組みを変えた。ここ数年は疲労などでシーズン後半にコンディションが落ちるのを恐れ、逆に終盤にかけて上がるような調整をしてきた。
「でも、そこは自分の努力で解消できるのではないかと。一番良いコンディションをまずは開幕に持っていく。ここ数年チームは序盤に勝てなくて勢いに乗れなかったし、新体制になっての開幕戦は大事ですから。先の話ですが、そこからコンディションを落とさず逆に上げていけるように。新しいチャレンジになる」
開幕前の11月に遠征した宮崎キャンプでは、W杯前の日本代表に鬼練習を課した格闘家のジョン・ドネヒュー氏のもと、「超」ハードなタックル練をこなした。「ここを乗り越えないと評価されないぞ」。自分に鞭を打ち続け、合宿最終日には充実感から涙を流したという。
「本当にハードでした。そこを乗り越えられたことが、いま自分が手応えを感じながら過ごせている要因のひとつだと思う」
果たして、今季は開幕戦からスタートの座を掴んだ。初戦の東芝ブレイブルーパス東京戦では「まさか」のフル出場。試合終盤にも関わらず持ち味のスピードで仕掛け、チャンスを作るなど好調さがうかがえた。
「見ている人が矢富元気やな、年齢を感じないなと思われることを、ひとつの目標にしています。外からの評価にはなりますけど、全然走れてないなと言われれば、僕はもう勝負できないということだと思うので」
藤井雄一郎監督に変わり、よりチームとしてボールを動かすことにチャレンジしている。その中枢はもちろん、スクラムハーフだ。
「ほどほどにしてくれよと思いながら、一生懸命走ってます(笑)」
ここまでラグビーを続けられるのは、根底に「ラグビーが好き」と言う気持ちがずっとあるからだ。
「若いときは走る楽しさもあったけど、たくさんのケガをしたり、年齢を重ねてプレースタイルが変わった時に、また違った楽しさが出てきた。いまはボールを動かしていくのが楽しくて。こういう風に動かせば、外側でゲインできるのか、とか。ラグビーは飽きさせない」
いつまでも少年の心を持った、ヤッツがいた。
文/明石尚之
PROFILE
ポジション=SH
やとみ・ゆうき/1985年2月16日生まれ、38歳/176㌢、85㌔/西陵中→京都成章→早大→ヤマハ発動機(現・静岡BR)、SRサンウルブズ/日本代表キャップ16