海外 2024.05.03

増える失業者。フランス ラグビーの現代契約事情

[ 福本美由紀 ]
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増える失業者。フランス ラグビーの現代契約事情
20歳ですでにスターのボルドー、WTBルイ・ビエル=ビアレ。(Getty Images)



 今シーズンも、ファイナルがおこなわれる6月28日まで、残すところ約2か月となった。
ここ数年、この時期に話題になるのが、来季の契約がまだ見つかっていない選手が増えていることだ。

 レキップ紙によると、2021年7月1日現在で所属クラブが見つかっていなかった選手の数は114人。2022年は172人、2023年は181人と増加している。今年は求人数に対して求職者の数がかなり多く、その傾向がさらに強まることが予想されている。

 理由のひとつは、各クラブの国への融資返済が始まったことだ。コロナ禍で試合ができなかった期間、そして無観客試合を行なっていた期間、融資を受けていた。

 また、クラブの経営状態を健全に保つため、そしてチーム間の戦力の均衡化を図るために導入されているサラリーキャップ制度も大きな要因に挙げられている。
 1070万ユーロ(約18億円)が所属選手の年俸総額の上限となっており、その範囲内でスター選手を他クラブに引き抜かれないよういやりくりしなければならない。そのため、どのクラブも契約するプロ選手の数を3〜4人削減し、レベルの高い、経験のある選手を1人補充することが多い。
 他は給料が高くないクラブのエスポワール(アカデミー)の選手で補おうとする傾向がある。

 例えば、ラ・ロシェルが現在契約しているプロ選手は30人。そこにエスポワールの8人の選手が加わり、38人で練習している。「これが最適な人数だ」と同クラブのラグビー・ディレクターは言う。

 幸い、フランスは若手の育成に成功している。プロで活躍できるエスポワールの選手も増えてきた。
 先におこなわれたU20のシックスネーションズでは、選手がすでにプロチームで主力となっているため、大会期間中も実施されていたトップ14や2部のプロD2のクラブが、選手をリリースしてくれなかったほどである。

 しかし、すでにシニア代表で活躍しているWTBルイ・ビエル=ビアレやSHノラン・ルガレックのようなスーパープレーヤーばかりではない。エスポワール契約は2019年までは23歳までだったが、現在は21歳になるとプロ契約を獲得しなければならない。
 経験のない若い選手にとっては、百戦錬磨のベテランと肩を並べるのはプロD2でも容易なことではない。「特に苦労するのはフロントローだ」と言うのは、先日『シュッド・ラジオ』のラグビー番組に出演したエージェントのジェローム・ロロ氏だ。

 それぞれの年齢別のカテゴリーでトッププレーヤーだった選手がプロクラブのエスポワールに入ることができる。しかし、その3割がプロ契約を獲得できずラグビーを諦めてしまうという。

「ドラフト期間は、公式には5月1日から6月30日だが、実際のところ、9割の移籍はすでに決まっている」とロロ氏は言う。先日彼が会ったナショナル(プロとアマチュアが混在する3部リーグ)のあるクラブの会長は、来季に向けて10人ほどリクルートを考えているが、「あと2週間ほど待つよ。値段が下がるからね。2000ユーロ(約33万円)でも喜んで来てくれる選手も出てくるだろう。失業よりマシだからね」と話していたという。

 またロロ氏によると、若い選手だけでなく、負傷が多く年に5〜10試合しかプレーしていない選手や、勤勉さに欠ける選手も契約獲得に苦労するということだ。
「狭い業界だから、ピッチの外でどんな選手なのかも聞こえてくる」

 この状況に対して、選手組合である『プロヴァル』は、サラリーキャップの適度な増額を訴えている。
また、毎週月曜日に全クラブにフリーの選手のリストを送り、カウンセリングを通じて選手の精神状態や財政状態を調査している。

 プロリーグ運営団体のLNRは、職業再訓練助成金を設立しており、クラブと選手が積み立て、選手のキャリアを終える時に受け取ることができる。何もなかった時代から比べれば進化だが、失業者を減らすことはできない。

 さらに、今年はファレルや、コートニー・ロウズのようなイングランドの大物プレイヤーが、財政状況が厳しいプレミアシップから、トップ14や2部のプロD2へ続々と移籍を決め、限られた席数をさらに減らしており、若手でなくてもその影響を受ける。

 各クラブがチームの強化を図り、リーグがよりエキサイティングに発展していく。
しかし、このステージで生き残っていくためには、より高いレベルのプレイヤーであることが求められる。プロスポーツの掟である。

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