国内 2024.02.14

クロスボーダーラグビーで日本勢唯一の白星。ワイルドナイツがチーフスを破った裏側

[ 向 風見也 ]
クロスボーダーラグビーで日本勢唯一の白星。ワイルドナイツがチーフスを破った裏側
抜群のパフォーマンスを見せたワイルドナイツのFLラクラン・ボーシェー。(撮影/松本かおり)



 結末を予見させる出来事は、試合の2日前にあった。

 チーフスのクレイトン・マクミランヘッドコーチはその2月2日、関東地区のホテルで会見した。新設のクロスボーダー戦のためだ。このシリーズは、2月中旬に開幕のスーパーラグビーに向けたプレシーズンマッチを兼ねる。

 指揮官が質問を受けた。ちょうど数時間前に発表された、対する埼玉パナソニックワイルドナイツのメンバーについてだ。

 きっと、どんな選手が出るのかを気にしていなかったのだろう。問いを聞きながら、手元の資料をチェックしていた。答えはこうだ。

「…いま、(ワイルドナイツのメンバーを)初めて見た。国際的に活躍している選手もいる。楽しみにしています」

 諸事情のため若手中心だったチーフスに対し、ワイルドナイツはベストの布陣だった。

 今度のクロスボーダー戦はレギュラーシーズンの中断期間中におこなわれ、勝ち点が伴わないながらも負荷の高さが予想され、クラブによっては編成に苦慮。特にワイルドナイツは、もともと実施に反対の立場だった。

 ところが実際には、賛成側だった他チームよりも、何よりチーフスよりも、ワイルドナイツがゲームの大義を肝に銘じていたのだ。

 一昨季まで2シーズン連続日本一の名門は、各国のキャップ(代表戦出場数)保持者を14名、登録した。

 うち2名は、ニュージーランドと双肩をなす南アフリカ代表のキャップを持つ。「無印」の面子にも、元チーフスで屈指のボールハンターであるラクラン・ボーシェーが位置。キックオフ直前には、向こうがハカを披露したのちに円陣を組んで、HOの坂手淳史が「最初の10分間(が大事)」と集中力を高めた。

 日本代表53キャップで左PRの稲垣啓太は、FW陣に発破をかけていた。

「(相手を)絶対、叩きのめせ」

 キックオフから自慢の堅陣を敷くのは、自然な流れだった。3分からの約3分間は20フェーズも耐え、ターンオーバーして間もなくSHの小山大輝がキック。FBの野口竜司が弾道を鋭くチェイスした。

 以後、蹴ること、追うことのワンセットは概ね機能し続ける。15分の先制トライのきっかけとなったチーフスの反則は、野口らがキックチェイス後に接点へ圧をかけ、引き出したものだ。

 タックラーがすぐに立ち上がって壁を敷き詰める流れは、リーグワンで対戦経験のある選手にとって「いつも見ている流れ」。海外選手ばかりのチームへもいつも通りの展開に持ち込めると、戦力十分のワイルドナイツは証明した。稲垣の弁。

「僕らには日本のトップよりも世界を意識している選手が多いんです。(相手の攻めに)どれだけフェーズを重ねられても、ターンオーバーを起こしたら自分たちにどんなメリットがあるのかをわかっている」

 プレイヤー・オブ・ザ・マッチはボーシェーだ。

 古巣を向こうに12分頃、さらには61分頃に自陣22メートルエリアでジャッカルに成功。それ以外の場面でもよく球にへばりつき、突進でも魅した。

「確かに特別なモチベーションはありました。自分の役割にフォーカスを当て、やるべきことをやり切れた。いい1日でした」

 途中、得点機を逃したり、角度をつけたパスに守備網を破られかけたりしたが、それで大勢は覆らず。勝つべくして勝ったと取れる内容を踏まえ、稲垣は淡々と述べた。

「全チームがこの機会を得られているわけではない。そのなかで日本のチームの強さを世界中に証明するチャンスでした。クロスボーダーマッチがこれからどれだけ続くかはわかりませんが、僕は続いて欲しい」

 チーフスのマクミランは、敗戦を「ワイルドナイツをお祝い申し上げたい。内容がいい勝利でした。だからこそ彼らは長年、上位に一貫性を持って入っているとわかりました」と総括した。



PICK UP