海外 2024.02.14

半年の交換留学生から始まった。ブルーズFL、ドイツ人のセグナーが歩むNZ代表への道

[ 編集部 ]
半年の交換留学生から始まった。ブルーズFL、ドイツ人のセグナーが歩むNZ代表への道
192センチ、108キロ。特にディフェンス面で評価される。(撮影/松本かおり)



 生まれはフランクフルト。ラグビー王国で躍進する若者として母国・ドイツのメディアで報じられたこともある。

 同国初のスーパーラグビープレーヤーは、ワールドランキング32位の同国のラグビーマンの憧れ。
 いま、その背中を追うドイツの何人かの高校生たちが、同じようにニュージーランドの高校に学び、ラグビーをプレーしている。

 2月10日、ニッパツ三ツ沢でブルーズの青いジャージーの7番を背負ったアントン・セグナーは、ピッチで体を張り続けた。
 横浜キヤノンイーグルス相手に57-22。セグナーはチームの勝利に貢献した。

 192センチ、108キロと恵まれた体躯を持つ22歳。ニュージーランドへやって来たのは高校時代だった。
 交換留学生としてネルソン・カレッジへ。半年の予定だった。

 しかし、ラグビー王国の魅力にあらためて強く惹かれた。自分の力が思っていた以上に通用することも知った。
 同校から奨学金を得られることになり、ヨーロッパから遠く離れた地で好きなラグビーに打ち込む決心をした。

 両親を説得しなければならなかったが、その後歩んだ道を見れば、判断は正解だったことは明らかだ。
 学校のファーストフィフティーンに選ばれ、主将も務めた。チームは好成績を残し、セグナーはNZ高校代表にも選出された。

 2020年、19歳でNPC(NZ国内州代表選手権)のタズマン代表となり活躍。2021年にはさらに輝く。
 U20クルセイダーズの主将を任された。U20 NZ代表にも選出。駆け足で階段を昇った。

 ブルーズとの契約は2022年に始まった。
 同年にスーパーラグビーデビューを果たし、7試合に出場。2023年(昨季)は9試合と出番を増やし、期待が膨らむ中で今季を迎えている。

 ザ・クロスボーダーラグビーの2試合を終え、「素晴らしかった。いろんな経験ができた」と話した。
「はやいテンポの試合展開に疲労困憊ですが、(関係者や周囲の)サポートも厚く、ホームにいる感じでした」
 個人的には初めての来日。滞在中には降雪があったものの、「寒くて、ドイツっぽさも感じました」と笑う。

 ドイツ人気質のイメージは几帳面。それに対しニュージーランドは、キウイタイムの表現に代表されるように、時間にルーズな印象だ。
「そう。そこは(対応するのは)、なかなかタフなんだけど、キウイっぽくなった自分もいます」と笑う。
 時間に正確な日本での日々を振り返り、「ドイツっぽくて嬉しかった」そうだ。

 ラグビーとの出会いは9歳だった。
 幼い頃は、ドイツの他の子どもたちと同じように、サッカーやアイスホッケーに興じていたが、ラグビーと出会い、人生が変わった。

 所属していたのは『SCフランクフルト1880』という伝統あるクラブだ。
 そこにはNZ人も何人かいたから高校時、留学先を決める際にラグビー王国を目指すのがいいとアドバイスを受けた。

 体をぶつけ合うラグビーが好きだ。
 その競技性から「深い人間関係や友情が生まれる」と言う。
 ラグビーが仕事となっても変わらない。ブルーズのトレーニングに向かうときも、「友だちに会える」感覚だ。

 オールブラックスになる夢を追い続けている。
 ドイツ代表の選択肢もあるが、「いまはブルーズの一員であることが楽しいし、幸せを感じています。チームに貢献することに集中しています」。
 いまを生きる。それを繰り返して道を切り開いてきた。同じ歩調で前進を続ける。

 以前、NZのメディアに少年時代の記憶を尋ねられ、YouTubeなどでオールブラックスの映像を見て、憧れる気持ちが大きくなったと答えている。
 迫力ある試合前の儀式を凝視して覚えた。
「ハカを真似する自分を、両親が不思議そうに見ていました」と記事にある。

 いま母国では、同じようにセグナーのパフォーマンスを見つめ、思いを募らせている少年たちがいるだろう。
「(自分の影響で)ラグビーを好きになったり、若い世代が自分も、と思ってくれたら嬉しい」と話す。

 愛されキャラ。周囲にかわいがられる。
 オールブラックスの経験を持つ先輩たちが、いろんなことを教えてくれる環境は最高だ。

「ダルトン(パパリィイ)、アキラ(イオアネ)、ホスキンス(ソトゥトゥ)らは、タックル、ブレイクダウン、ハンドリングと、バックローに必要なスキルは当然、ピッチ内外で、たくさんのことを伝えてくれます」

 タックル。そして、ボールのあるところに、この人あり。
 そんな信頼される存在になり、いつかテストマッチのピッチに立ちたい。
 黒衣を着てのハカは、もう夢でなく、ターゲットになっている。


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