国内 2023.11.10

成城学園の「異常な部活」。全国大会まであと1勝。

[ 向 風見也 ]
成城学園の「異常な部活」。全国大会まであと1勝。
突破を図る成城学園のBK井手晴太。写真は関東高校大会にて(撮影:福島宏治)


 目立つのを恐れてはいけない。幼稚園からいる成城学園の高校の教室で、村井健人はそう意識してきた。

 ラグビー部の主将だ。自分たちはこの高校で真剣に全国大会を目指す唯一の部活だと考えている。

 都内有数の高級住宅街の真ん中にある人工芝グラウンドで、「(ラグビー部は)成城のなかではガチでやっている異常な部活、というか…」と話した。

「体重を増やすために学校でもおにぎりを食べている。周りからは『また、食べてるよ』と。ここで周りに流されないでいよう、というの(思い)があります。わちゃわちゃやるという意味での楽しさに流されず、まじめにやるという意味での楽しさを(味わう)」

 話したのは11月4日。大一番を8日後に控えていた。全国高校ラグビー大会の東京第一地区予選決勝である。勝てば1947年度以来3度目の全国行きだ。東大阪市花園ラグビー場で試合ができる。

 前年度も決勝に出ていた。國學院久我山に5-29で敗れた。相手の強いコンタクトに苦しみ、相手に通算43度目の全国行きを許した。

 反省を活かす。ファイナルの壁を破るべく、サイズアップに注力した。それまで走り込みを重ねてきた夏の時期も、身体を大きくするトレーニングに時間を割いた。

 チームのトレーナーが紹介した栄養士から栄養指導を受け、補食を摂るようになった。保護者からはベースブレッド、あんまん、カステラなどの差し入れをもらっている。

 昼休みでもないのに教室でおにぎりをほおばるのは、つかみ取りたいものがあるからなのだ。

 春と比べ、それぞれ約5キロずつ大きくなった。都予選で勝ち進むなか、大きくなった身体でプレーするのに慣れていった。主将の手応えはこうだ。

「ちょっとしたところで前に出られるようになって、戦いやすくなった。去年は気持ちで『でかい相手を止めるぞ』という感じ。今年はしっかり勝てるというチームになってきた」

キッカーを担う村井健人主将。写真は関東高校大会にて(撮影:福島宏治)

 今度の決勝の相手は、過去7度全国行きの早稲田実業(早実)だ。

 学校が休みだったこの日は、朝から昼過ぎまで全体練習。充実の客員コーチも寸暇を惜しんで集まり、OBで早大卒の中山匠が防御やラインアウトを、リーグワン3部の清水建設でプレーする菅原崇聖がスクラムを教える。

 トレーニングを締めくくるサーキット系のセッションのさなか、佐藤政ヘッドコーチ、溝口奨コーチが叫ぶ。

「100パーセントを積み重ねろ!」

「勝負は甘くないぞ!」

 村井は続ける。

「(ここ数年で)勝てるようになって、知ってくれる方が多くなって、OBの方々も(練習に)来てくれるようになった。きょうも(練習前に)早実に関するミーティングをしてくれた。たくさんいるコーチたちが、早実のサインプレーの動きをしてくれるのもありがたいです。グラウンド外でも、LINEで質問をしたら丁寧に返してくれます」

 成城学園には、國學院久我山などにあるスポーツ関連の推薦入試がない。今年のチームは、小学校や中学校から成城でラグビーをしてきた友人同士が作ってきた。個性を重んじる流れで仲間意識を育む。

「僕らが中学の頃の高校は人数が少なく(他校との)合同チームになることもありましたけど、いまは人数も増えて(33名)、15対15のメニューもできるように。最近では大学(成城大)とも一緒に練習をしていて、強豪校と試合をするような重さも感じられます」

 こう語る村井ら3年生は、決勝2日前の練習に出られない。学校の観劇行事で、東京・赤坂ACTシアターで『ハリーポッターと呪いの子』を鑑賞することになっているからだ。

 ただ、それ以前までに積み上げたものを信じている。

 11月12日、東京・秩父宮ラグビー場。11時半キックオフの試合を制したら、どんな景色に出会えるだろうか。SOで先発予定の村井は笑う。

「昨日(11月3日)まで文化祭だったんですけど、いろいろな先生や生徒、保護者から(決勝進出に関して)『すごい!』『頑張ってね!』という言葉を多くもらった。決勝で勝ったらもっとすごいのかな…。経験してみたいです」

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