【再録・解体心書⑤】毎日願うこと。アマト・ファカタヴァ&タラウ・ファカタヴァ
*ラグビーマガジンの人気コーナー『解体心書』にかつて掲載された、ワールドカップ2023日本代表メンバーのインタビューを抜粋して再録。(掲載内容はすべて当時のまま)
アマト・ファカタヴァ&タラウ・ファカタヴァ[大東文化大学] *2018年10月号掲載(アマトがW杯日本代表メンバー)
アマト(写真左)とタラウは1994年生まれ。大東文化大がかつて大学日本一を成し遂げたシーズンに生まれた双子が、悲願の王座奪回をフィールドで力強くリードする。海外留学生の出場枠が3人に増える今年、その存在感はいやがうえにも増す。いまでも故郷の母の言いつけを守り、眠る前には聖書を開く。試合前には、ある一節を決まって復唱する。頂点に続く道のりを静かに見据えている。(文/多羅正崇、写真/高塩隆)
今季の大学ラグビーは海外留学生の出場枠が「2」から「3」に増える。国際色豊かな大東文化大学にとっては追い風だ。
大東大の3つの椅子のうち2つは、この強力なツインズが占めるだろう。最終学年になったアマト、タラウのファカタヴァ兄弟だ。
NO8が定位置のアマトは、強力なフィジカル、ランスキルに加え、陣地挽回のキックを担うこともある。
「むかしはWTBだったので、キックのスキルが必要でした。スタンドオフがいなければ、僕が蹴ります」(アマト)
主にLOを務めているタラウは、強力なボールキャリー、ラインアウトのほか、ブレイクダウンで下働きもする。
オフロードパスは2人とも得意だが、むやみにボールを放ることはしない。
「オフロードパスをするには、ゲインラインを取ることが必要。無理はしない」(タラウ)
22年ぶりにリーグ戦を制覇した昨季から、さらにスケールアップしそうなモスグリーン軍団。
指揮官は、’94年度の大学選手権優勝メンバーで、復権に尽力している青柳勝彦監督。出場枠が増えることのメリットを感じている。
「去年はファカタヴァ兄弟が出てしまうと(出場枠が2だったため)、バックスのシオペ(ロロ・タヴォ/2年)が出られませんでした。バックスに突破できる選手が少なかったので、フォワードで突破口を開くラグビーをやっていました。今年はバックスに1人、外国人選手が入るということは大きいです」
青柳監督いわく、今季の理想型のひとつを示すことができたのは、LOタラウ、NO8アマト、CTBシオペが同時出場した春季大会の慶大戦だという。
NO8アマト、CTBシオペが次々と突破し、11トライ63得点をマークした。
「ファカタヴァ兄弟に関しては、もちろんディフェンスもしていますが、ペネトレーターで前に出てもらって。そこをうまく日本人につないでいきたいですね」(青柳監督)
ただその後の春季大会ではケガ人が増えた。14-80で大敗した明大戦では、和名のみの先発メンバーで臨んでいた。
「帝京大戦あたりまでメンツが揃っていました。明大戦は(外国出身選手は)みんなケガで、日本人にもケガが多かった。そのぶん、ほかの選手が出場して経験を積むことができました」(青柳監督)
当の本人たち、アマトとタラウは、今季の出場枠増について独自の意見を持っている。
シンプルに攻撃力アップを喜ぶというより、ピッチ上のコミュニケーションが増えることが、なにより嬉しいのだという。
「3人になると意志疎通が取りやすい。1年生のときはすごく難しかった」(アマト)
「グラウンドに(トンガ出身選手が)3人いると、良いコミュニケーションが生まれる。フォワードに2人だけだと難しい」(タラウ)
ピッチで縦横無尽に見える彼らだが、言葉による連係の面では、これまでトンガ語で会話できる相手がピッチに1人しかいなかった。その相手が「1」から「2」に倍増することは、ピッチ上の世界が広がる感覚があるようだ。