【再録・解体心書⑤】毎日願うこと。アマト・ファカタヴァ&タラウ・ファカタヴァ
シオペは来日2年目だから、兄弟には新たな役割も生まれている。
「シオペは、まだ日本語があまり分からない。だから、僕らが日本語で聞いたことを、シオペにトンガ語で教えることもある」(タラウ)
青柳監督は最近の2人について、「だいぶ日本語を覚えた」と満足げだ。2人はピッチ上の通訳も務めている。
外国人枠の増加で、アマト、タラウの重要性、存在感は増していくことになりそうだ。
1994年12月7日。トンガの首都ヌクアロファで、アマト、タラウは同時に生を受けた。5人姉弟で、姉が2人、弟が1人いる。
2人を熱心に教育した母ヴィカさんは、敬虔なクリスチャンだ。現在もトンガで暮らし、2人が帰国する2月のシーズンオフを楽しみにしている。
アマトとタラウもクリスチャン。就寝前のお祈りは、忘れないようにしている。
「『ゴッド、ヘルプ、ミー』と祈ります。ほかにも、『ラグビーのスキルを教えてください』とか、『テストが分からないので助けてください』と祈ります(笑)」(アマト)
アマトはおどけてそう答えたが、宝物として見せてくれたのは、トンガ語の聖書。2人で一冊。母ヴィカさんが贈ってくれた聖書は、幾度となく開いてきたからだろう、すこし傷んでいた。
モスグリーン軍団にはまだ双子がいる。ファカタヴァ兄弟の同期で、主務を務めている大野翔太、そして寮長を務める雄太もツインズだ。
その大野主務は、4年間をともに暮らしてきたアマトとタラウについて「真面目です」と語った。
大東大では寮内の掃除を全学年で行っている。アマトとタラウはウエイトルームの担当だが、練習後、練習着のまま掃除をするなどし、学生幹部のチェックに間に合わせているのだという。
「今まで長くラグビー部を見てきている方も、『2人は仕事をきちんとやる』と言っています。僕たち双子は、アマト、タラウと1年間、食事当番を担当しました。2人の仕事を見てきましたが、しっかりしていますね」(大野主務)
大野主務が言うには、アマトはとにかく皿洗いのスピードが速かったそう。一方のタラウは、大きな鍋を丁寧にじっくり洗う姿が印象的だったという。双子とはいえ、性格にもプレースタイルにも細かな違いがある。
そんな食事当番のエピソードを当人にぶつけてみると、タラウは肩をすくめるようにした。
「トンガの家でやっていました。食べたら、お皿を洗う」(タラウ)
当たり前のこと。そう言わんばかりだった。
2人とも来日1年目は日本語が分からずに苦労した。しかし4年目になって、寮生活にも、日本の文化にも慣れた。
タラウの好物はとんかつだ。納豆は、2人とも来日当初から食べることができた。ただモツは今でも苦手だ。
トンガの主食はイモだから、ときどき故郷の文化に触れたくなる。
そんなときは「チャリで駅のスーパーに行く」(タラウ)。そしてスーパーで買い込んだ辛口のインスタントラーメン、チキンをいっしょくたに煮込み、それをおかずに蒸かしイモを食べる。創作トンガ料理も手慣れたものだ。