【連載】プロクラブのすすめ⑩ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 充実のスタッフ体制で新シーズンへ
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
記念すべき10回目となる今回は、昨日発表された今季のチームスタッフ体制について語ってもらった。(取材日8月21日)
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――まずは少し前のトピックスから。清水南中等部(中学校)のラグビー部を地域クラブ化し、「BlueRevs RFC SHIMIZU」を設立しました。
部活動の外部委託や地域クラブ化は全国的にも始まってきていますが、NPOや地域の団体ではなく、民間企業が受け入れる、しかも地元のプロチームが運営するのは全国初の取り組みだと思います。
いまは選手が20人いて、そのうちの2、3人は他の中学校の生徒たちです。5500円の月謝をいただきながら、週3日でしっかりと活動していく。県内のいろんな地区、例えば静岡、焼津、沼津、浜松とかに展開したいと考えています。
こうした取り組みは自分たちがやるべき「義務」だと思っています。日本協会や各都道府県の協会が取り組むべきものだとは思いますが、そうも言っていられません。このままだとラグビーの競技人口は増えず、ラグビーをやる学校も少なくなる。一人でも多くの競技者を増やしていがなければなりません。それはラグビー教室をやりましたとか、体験会を開きましたではなく、競技者登録をして継続的にラグビーに取り組む子たちを増やしていく。
まずは中学生世代でこの事業を展開していきます。それから、以前にも話しました(第3回)高校生世代のユースチームを作る。ユースチームはまず磐田を拠点として、近隣の高校に通う選手たちが集まる。各地域のジュニアチームから、選手を選抜するイメージです。
ただ、ユースチームを始めるタイミングは、花園に出場できるかどうかで大きく左右されます。クラブチームも出場可となれば、静岡県代表になるためのチームづくりをしていきます。
その上のカテゴリーは、いまの日本は大学が担っていますが、われわれは18歳以上のサテライトチームを作りたいと思っています(第2回に詳しい)。そこでは地元の大学に通いながらプレーする選手だったり、大学へ行かずにプロ契約する選手も出てくるでしょう。ブルーレヴズに所属する試合機会の少ない選手も、選手登録をして試合に出る。トップウェストなのかリーグワンのディビジョン3かは分かりませんが、選手の登録変更が柔軟にできればすぐにでも着手したいと思っています。高校生であっても優秀であれば昇格するのもありですね。
「将来的にできたらいいよね」ではなく、「すぐにでもやらなければいけない」と、僕は思っています。
――今回のテーマは、昨日発表された今季のチームスタッフ(体制)についてです。監督に藤井雄一郎・日本代表ナショナルチームディレクターを迎えました。どのような考え方で組織づくりをしたのでしょうか。
まずヤマハ発動機からの状況を振り返ると、2019年度に清宮(克幸)監督体制から堀川(隆延)監督体制(昨季はHC)となり4シーズンが経ちました。堀川さんはコーチとしてとても優秀な方ですし、これまでジュビロを支えてきた人です。ただ、成績に関しては残念ながら近年落ちてしまっている。それはコーチ陣の責任ということだけではなく、主力選手の引退や(日本代表のヘル)ウヴェをはじめとするカテゴリAの選手が移籍が相次いだりした過渡期であったことも大きかった。
特にこの2シーズンはけが人が重なったこともあり、開幕前に目指していた方向性がぶれて取り組みに一貫性がなかったと感じました。
どういうラグビーをするのか、どういう方針でチームづくりをするか、そうしたチームのミクロのマネジメントをチーム現場でしっかりできる人を据える必要があるなと。選手と密にコミュニケーションを取りながら、いろんなことが起こったとしても、選手たちを納得させたり、説明できるコミュニケーション力のある方を、監督に迎えようと思いました。
通訳に吉水さん(奈翁/日本代表通訳)が入っているのは、コミュニケーションをよりよくしたいと考えてお声がけしました。藤井さんが外国人選手に自分の言っていることを正確に伝えてほしいという思いもあり、今季は梶原(美央)と通訳2人体制でいきます。
ブルーレヴズはプロチームなので、お客さんが減れば強化費を抑えなければいけなくなったり、逆に増えれば投資ができます。そうした環境の変化に対応できる柔軟性も必要です。この選手を獲得できないならもうお手上げ、ではなく、この選手が難しければこういう選手を育成すればいい、と言える人。
藤井さんは、われわれのそうした状況に理解のある方です。サニックス時代にはご苦労もされていて、予算に制約がある中で良い選手を見つけて、番狂せを起こしたり、トップリーグの上位に食い込んだ実績があります。
また、日本代表のスタッフをぜひ迎えたいと思っていました。日本代表は世界のなかではチャレンジャーの立場ですよね。われわれもリーグワンの中ではチャレンジャー、同じような立ち位置だと思っています。
それでも、日本代表は「世界一を目指す」と堂々と言っている。そこには相当な覚悟とそこに対する視野の高さがあるということです。そうしたメンタリティやカルチャーを植え付けてくれる方が必要だと思いました。
――長谷川慎・日本代表コーチ(静岡BRアドバイザー)はアシスタントコーチとして帰ってきます。
レヴズスタイルを象徴する人、(早く)戻ってきて欲しかったですね。慎さんが持っているスクラムのノウハウは、絶対にチームに必要です。
藤井さんにしっかりとしたチームづくりをしてもらい、長谷川慎、堀川、有賀(剛)、そして新加入のデンさん(田村義和)で、目指すべきラグビーのスタイルを作っていきます。
――新加入スタッフでいえば、昨季まで埼玉ワイルドナイツに在籍していたアスレティック&RTPトレーナーの海江田晃さんも入りました。
先ほども触れましたが、昨シーズンの大きな課題のひとつが”ケガ”でした。クワッガ(スミス)を筆頭に多くの選手がシーズン終盤にいない事態が起こった。ベストメンバーが6、7人いなかった試合もあった記憶しています。
僕もアメフト出身ですし、コンタクトスポーツにケガはつきもの、というのは分かっているのですが、いかにケガを防ぐか、ケガをしてしまったのならいかに早く治すか、は経営的には大きなテーマです。どれだけ良い選手を獲得してもケガをしてしまえば、まったくパフォーマンスを発揮してくれないわけですから。
そこでまず、トレーナーを昨季から1人増やして3人から4人体制に変更しました。海江田さんはRTP(Return to Play)、ケガから早く復帰させるノウハウを持っている方です。試合数が将来的に増えるのであれば、そうした復帰フェーズに力を入れることもすごく大事になります。
――充実したスタッフ体制でわくわくしています。
今シーズンに関しては、こうしたコーチ・スタッフ体制に”投資”をしました。来シーズンから選手への獲得にも積極的に動いていきます。来年、再来年以降はより藤井さんのカラーも出てくる(獲得したい選手が見えてくる)でしょうし、藤井さんには世界の選手の情報が集まっていると思う。
3年以内に日本一になる目標を掲げているので、今年はスタッフ、来年は選手、そして3年目にその完成形を目指す。日本一になるハードルの高さはもちろん感じていますが、そこを目指せる状況は作れると思っています。
ただ、これらを実現させるためには集客やスポンサーを増やさなければいけません。W杯効果を最大限に享受しながら、事業面の努力を続けたいと思います。
さらにその先の展望を話すと、ひとつは環境面の整備を考えています。新しい練習施設を作りたいと思っていて、模索段階ではありますが磐田市内の土地を検討したり、海外チームの練習施設を視察したりして、少しずつ動いています。他のチームに引けを取らない、日本一の施設と言ってもらえるような施設を作っていく。4、5年以内に実現したいと思っています。
その頃に冒頭でお話ししたサテライトチームやジュニア、ユースのチームができていれば、そこから良い選手を輩出できたり、リクルーティングも優位に働く。
そうした絵を描きながら、ビジネスの拡大とチームの強化を両輪でやっていきます。
PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任
静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)