【コラム】いま、試されている人。
果たしてチーム作りは間に合うのか。船は正しい方向に向かっているのか。
7月に始まった国内での連戦、特に最後のフィジー戦の完敗で、私の日本代表への疑念は大きくなった。
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しかし、稲垣啓太は揺らいでいなかった。
試合後のミックスゾーン。報道陣に囲まれた背番号1に、私は問いかけた。
「2015年、19年のW杯前も多くの逆境はあった。それを乗り越えてきた人間として、今の代表チームにできること、還元するものは何なのか」
稲垣は一拍おいて、いつものようによどみなかった。
「苦しい状況になると、色々なところに手をつけ始めるんですよ。あれができていない、あれもしなきゃ、準備もしなきゃ、って」
「でも、僕はラグビーってシンプルなものだと思っているし、チームが進むべき方向もまたシンプルだと思っています。改善すべき点って、そんなに多く手をつけなくても、一番大事なことをしっかり直せば、チームはまっすぐ進んでいける」
セットプレーやフェーズアタックの精度、ディフェンスの整備に規律の改善……。国内5連戦を終えた日本代表の現状を見れば、課題は山積だ。けが人も多い。稲垣は「(W杯までの短い期間で完成度を)伸ばさなければ先がない」とも話している。
だからといって稲垣は、その一つ一つに振り回されるのではなく、「一番大事」な何かを見つけて、そこを改めればいいと感じている。やるべきことを絞りきる。それが、W杯で多くの勝利をつかみ取ってきたプロップの肌感覚だ。
過去2大会の日本代表は、いい意味で周囲の期待を裏切ってきた。
2015年。本番前のジョージア代表との強化試合は13—10の辛勝だった。W杯初戦で南アフリカに勝てるチームとは思えなかった。でも、彼らはその前の秋にジョージアに惨敗したスクラムの成長に大きな自信を持った。2週間後、ブライトンで世界を驚かせる痛快な金星をあげた。
2019年。本番前の南アに7—41で完敗した。エースの福岡堅樹がけがをした。W杯初戦のロシア戦もぎこちなかった。当時世界ランク2位のアイルランドに勝てるとは思えなかった。でも、彼らは自分たちがやってきたプロセスを信じた。静岡で再び、堂々と下克上を起こした。
アイルランド戦の朝、ジェイミー・ジョセフHCが選手たちに送った詩を、田村優が試合後に明かした。
「誰も我々が勝てるとは思っていない。
誰も接戦になるとすら思っていない。
どれだけハードワークをしてきたかも知らない。
どれだけの犠牲を払ってきたのかも知らない。
君たちは、自分たちが準備ができているのをわかっている。
私も、君たちが準備できているのを知っている」
あの劇的の勝利の後で、この言葉を聞いた時、私は自分の凝り固まった考えを恥じた。それなりに長くラグビーを取材してきたはずなのに、彼らの反骨心を、結束力をまるで理解できていなかった。本番前の強化試合はあてにならないのだ、と思い知った。
「信じる」という言葉は時に上滑りする。