【コラム】いま、試されている人。
でも、彼らはそれを形にしてきた。本番で具現化してきた。今の日本代表には、少なくともあの成功体験が染みこんだ選手たちがいる。
「信は力なり」は、京都工学院高(旧・伏見工業高)ラグビー部の精神性を表す格言である。
5月、同校総監督の山口良治さんの話を聞く機会があった。泣き虫先生は何十年も前の出来事をつい先週に起きたかのように話してくれた。
まだ若かった山口さんは、やんちゃな部員たちと交換日記をしていた。
間違いだらけの漢字を正しながら、先生は授業の休み時間も、夜中の布団の上でも、何十冊もの日記に返事を書いていたという。
一人一人を見ていることを、彼らに実感して欲しかった。その一心だった。「そのまま眠ってしまって、日記によだれがついたこともあった」と笑っていた。
信じる、とはそうやって誰かが情熱を注ぎ続けた時間の積み重ねなのだと思った。
コーチを、仲間たちを信じる文化が、今の日本代表にはあるはずだ。互いを信じるに足る努力を紡ぎ続けた時間があるはずだ。
それが稲垣だけのものか、W杯経験者にとどまるのか、スコッド全体に広がっているかは分からない。
不安要素の一つに、まだキャプテンが決まっていないことがある。浦安合宿の終了時、藤井雄一郎・ナショナルチームディレクターは強化試合を重ねる中で「発表できるタイミングで発表する」と話していたが、その強化試合も国内は終わってしまった。これは想定内なのか、首脳陣の迷いの表れなのか。
この国内5連戦で使われていない選手がいる。たとえばSH福田健太。リーグワンでの強気な姿勢を買われて招集されたのに、一度も試さなかった。イタリア戦で使うのか。第3のSHとして緊急事態のみの起用なのか。試合の鍵を握るハーフ団の一人なのだ。ここも首脳陣の意図が読めない。
分かっていることはある。フランスの地で、過去2大会のようなジャパンを見せるためには、不遇にいる選手も含めて、彼らが「信」を力に変えなければならないということだ。時間は限られている。やるべきことを割り切れる、と捉えるのは前向きすぎるだろうか。