海外 2023.06.22

ンタマックの目に涙。愛するクラブ、トゥールーズの優勝に感激

[ 福本美由紀 ]
ンタマックの目に涙。愛するクラブ、トゥールーズの優勝に感激
クライマックスの局面で才能を爆発させたンタマック。(Getty Images)



 2022-2023シーズンのトップ14決勝戦(6月17日/トゥールーズ 29-26 ラ・ロシェル)は、まるで映画のよう。劇的なシナリオとなった。
「マン・オブ・ザ・マッチ? ペナルティからのタッチキックをミスして『マン・オブ・ザ・敗戦』になっていたかもしれない」と試合後ロマン・ンタマックはフランスのTV局のマイクに答えた。

 74分、26-22でラ・ロシェルがリード。トゥールーズが敵陣でペナルティを得る。ゴール前でラインアウトから逆転のトライを狙うため、ンタマックがタッチに蹴り出す。
 しかし、ボールはゴールラインを超えてしまう。場内の大型ビジョンに両手で顔を覆う彼の姿が映し出される。

「これで終わったと思った。味方の努力に報いることができなかった自分に失望した。でも他の14人が『まだ5分ある。勝ちに行くぞ!』と言ってくれた。それで気持ちを切り替えることができた」(ンタマック)

 その後のスクラムでもラ・ロシェルにペナルティを与え、自陣22mまで陣地を戻される。ラインアウトからボールを繋ぐラ・ロシェル。トゥールーズがボールをターンオーバーする。ボールを受け取ったンタマックにラ・ロシェルのCTBのUJ・セウテニとHOカンタン・レスピオが襲いかかる。逆ヘッドでタックルに入ったレスピオがグラウンドに倒れ、レフリーが試合を止める。タックルを受けたンタマックも立ち上がれない。

「ダメージが大きかったから交代させようかと考えた」とトゥールーズのユーゴ・モラHCは試合後に打ち明けている。

 ンタマックが立ち上がり、戦列に戻る。トゥールーズボールのスクラムから試合が再開される。自陣22mの中だった。
 ラ・ロシェルのプレッシャーを受けることなく、素早くスクラムからボールを出し、ようやくボールを持ってプレーすることができた。

 ピッチサイドで取材していた『ミディ・オランピック』の記者に「ボールさえ持つことができれば勝つことができるのだが」とモラHCは漏らしていた。
 そのチャンスがついに来た。

 全員でボールをつなぎ、フェーズを重ね、右へ左へ振りながら、ラ・ロシェルのディフェンスを動かすこと1分30秒。ラックからSHアントワンヌ・デュポンが左へ走り、タイミングをずらしてンタマックにパスする。

「スペースが見えた。数的有利が作れると思った。でも結局そのまま自分で持っていくことにした。足がつっていたけど加速した。ゴールラインを超えて、できるだけゴールポストの近くでボールを押さえることしか考えていなかった。運が僕に味方してくれて、ミスを挽回させてくれた」(ンタマック)

 一気に形成が逆転した。FBトマ・ラモスがコンバージョンを決め、残り10秒。モラHCが「キックオフで中盤を狙ってくる!しっかりとれ!」とCTBフアン・クルス・マリアに叫ぶ。的中だ。ボールをしっかりキャッチしてラックを作る。ホーンが鳴り、デュポンがラックからボールを出してンタマックにパス。背番号10がスタンドに蹴り出した。
 モラHCも、グラウンド上のチームメイトも、スタンドで観戦していたチームメイトも全員が駆け寄ってきてもみくちゃにされる。涙が溢れる。

「試合が終わって泣いたのは初めて。緊張が解けて感情が込み上げてきた」

 ンタマックにとっては、トップ14の決勝戦で初めてのスタメン出場だった。4年前は最後の5分プレーしただけだった。
 2年前は準決勝で脳震盪になりスタンドで観戦していた。

 試合前日の記者会見でモラHCは、「ロマン(ンタマック)はこのクラブの子。クラブを象徴する存在。若くして難しいポジションでトゥールーズでの試合数は100を超え、ようやく巡ってきたチャンス。思う存分味わってほしい」と話していた。

「5歳からトゥールーズでプレーし、このクラブで育ち、ずっとトップ14の決勝で活躍することを夢見てきた。最後のアクションで自分の大好きなクラブの優勝を決められるなんて信じられない! 自分のキャリアで一番大切なトライになる」としっかり指導者の期待に応えた。

 この試合の直後に「リトル・プリンス、キングになる」とトゥールーズのサポーターがツイートした。エミール・ンタマックの息子として、U16、U18、U20と注目され、期待され続けてきた。

「父は成功した。だからと言って僕も成功する保証なんて全くなかった。そういう父を持てたのは間違いなく恵まれていることだけど、僕には僕自身の戦いがあった。僕には『ンタマック』という名前があり、期待も大きかったから、誰よりも努力しなければならなかった。僕自身の意欲を、ナンバーワンになるという気持ちを見せなければならなかった。夏休みも、他の子がバカンスに出かけている間、僕はグラウンドで走り、ウエートトレーニングをしていた。高みに達することが目標だった。名前があるからじゃなく、自分の努力で到達したのだと証明したかった」

 この決勝の直前に『ミディ・オランピック』に掲載されたンタマックのインタビューの抜粋である。

 そんなンタマックを子どもの頃から見てきたモラHCは試合後のインタビューで、「彼の父親は23歳で我々のキャプテンとしてフランスチャンピオンになった。その30年後に息子が24歳で同じくチャンピオンになるなんて。ロマンは不屈の意志を持っている。もしかしたら彼がフランスを世界チャンピオンにしてくれるかもしれない」とベタ褒めしていた。


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