日本代表・流大、過酷セッションに「好んでできる練習ではない。でも、やらないと」。
流大がラグビー日本代表に初めて入ったのは、2017年のことだ。
翌18年には代表とつながるサンウルブズの共同主将になり、国際リーグのスーパーラグビーに挑んだ。そのシーズンの前には、早朝にバズーカの音で起こされる自衛隊キャンプを経験した。
19年には、宮崎で夜間練習の伴う長期合宿を実施した。
これらを、その年の秋のワールドカップ日本大会8強入りにつなげた。
過酷な鍛錬を歓喜につなげてきた30歳の流にとっても、今年6月12日からの浦安合宿は過酷だという。
「僕個人としては、サンウルブズの自衛隊のキャンプ(2018年に実施)は精神的にはきつかったです。ランニングボリューム的には、いまの段階では2019年(ワールドカップ日本大会前)の方が多いかもしれないです。ただ、フィジカル的な負荷はいまの方が高いなと感じます。心肺機能もしんどいですし、身体の痛みもかなりあります」
話題に挙げるのは、朝のタックルセッションだ。グラウンドに併設された白いテントにこもり、約1時間、休憩なしで身体をいじめ抜く。
複数の証言を総合すると、その過酷さが伝わる。
頭から腰までの直線を保つ、向こうの懐に踏み込んでからも膝を伸ばさない、相手のジャージィではなく身体をつかんで倒すといった基本項目を、息が上がってからも徹底する。途中、腰や膝に手をつけば、それまでにしていた動作を最初からやり直す…。
非公開とされるこのトレーニングについて流が話したのは、2週目の2日目にあたる20日。いつも翌朝に厳しい練習が待つ現実について聞かれ、こう言葉を選ぶ。
「またあるのか、という気持ちにはなりますが、いざ朝になれば(ホテルからグラウンドへ移動する)バスのなかで皆が『今日も頑張ってしっかり乗り越えよう』と声掛けをします。僕自身にとっても、皆にとっても、好んでできる練習ではないです。でも、やらないといけない使命感がある。それにこれをやったら成長できるという実感がすでにある。本当に大変ですけど、皆で頑張ろうと」
例のセッションを仕切るのはジョン・ドネヒュー。ラグビーリーグ(13人制)の分野で知られるオーストラリアの名指導者だ。目下、短期のスポットコーチとして携わる。
ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる現体制は、テストマッチ全敗に終わった昨秋のツアーを受けてタックルの強化を最重要課題のひとつに設定した。ここで白羽の矢が立ったのが、ドネヒューだった。
ジョセフと親交の深い藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは、予めドネヒューのキャラクターや厳しい指導ぶりをリサーチ。「2週間以上は無理」と看破した。そのためドネヒューに頼んだのは、短期集中のセッションだった。
実際におこなわれたのは、水を飲む暇もないほどの猛練習である。本来ならハードワークを貴ぶ代表側のほうが待ったをかけたがるほどだ。
ドネヒューの哲学を、流は「仲間をどうやってヘルプするかに重きを置いている」と読む。始動したての時期にしていた、馬跳びのメニューを例に説く。
「しゃがんで、飛び越えられる側の方が(飛ぶ人よりも)楽じゃないですか。そこで、その(飛び越えられる)選手がちゃんと(相方に)声をかけているかとか、数字をカウントしているかとか(を注意する)。きついことをしている側のためだけのメニューにするのではなく、一緒に乗り越えさせる意図がある。どれだけきつくても、お互いの目を見て声を掛け合いながらやることの大事さ(を再確認した)」
見据えるのは、今秋のワールドカップ・フランス大会だ。
2大会連続での決勝トーナメント進出および初優勝を目指し、心身を鍛える。ハードトレーニングで追い込むのを基本線としながら、けが人の発生を抑えるよう適宜、調整をかける。
7月からは宮崎を拠点とし、8月5日まで全国各地で対外試合に挑む。
藤井の説明によると、少なくとも7月8日の「JAPAN XV 対 All Blacks XV」(東京・秩父宮ラグビー場)は戦前の調整をせずに「合宿の延長」でおこないそう。さらにこの試合を含めた5試合には、一定のメンバーを固定して臨む見込みだ。
流は首脳陣の目論見について詳しく聞いていないとしながら、これから定位置争いの「競争」が始まるのを自覚している。リーダー格でもあるSHとして、こう続ける。
「調整のような試合にはならない。そこに向けて必死に頑張っている。全試合、出るつもりでいます。いまは個人のフィジカル、コンディショニングを上げることにフォーカスしている。最初の何試合かは身体がきついまま迎えることになると思います。そのなかでタフさが求められる。頭をクリアにして戦術も理解していないといけない。合宿の延長線上だからという言い訳は一切、できなくて、最初から勝ちに行く。その辺は、引っ張っていきたいです」
チーム内の共通言語は「絆」「勇気」「導く」。この三つを、本当の意味で体現したい。